novel

小説4(夢伝説)

 ←小説3(風のロマンス) →小説5(いつか俺にも)
neru_2.jpg
フォレストシンガーズストーリィ・4

「夢伝説」

1


 去年の夏の終わりごろに、合唱部の中では親友と呼んでもいいであろう、本庄繁之が恋をした。ほりゃあ、シゲとて恋するお年頃なのだから、恋くらいしても不思議はないがや、と俺は思ったのだが、初恋なんてものはかなわないのが普通であろう。
 リリヤに恋したのがシゲの初恋だったのかどうかは知らないが、当然のごとくその恋は砕け散った。リリヤは俺たちの知らない男と恋をして、「できちゃった結婚」とやらをしてしまったのだから、もはやシゲには話しすらもできない存在になったのだろう。
「まばゆいなぁ。今でも綺麗やなぁ」
 合唱部は退部して主婦兼学生となったリリヤは、大学には通っているので、たまには姿を見る。マタニティウェアを着て歩いているリリヤを見て、実松などはそうコメントしていた。が、シゲはため息しかつかない。
 シゲが恋をしたおかげで、シゲと俺は本橋さんや乾さんとお近づきになれたのだ。個人的に本橋さんと乾さんのデュエットを聴かせてもらえたのも、シゲのおかげだった。乾さんのアパートに連れていってもらって、本橋さんも含めて四人でビールを飲んで、フォークソングやらソウルミュージックやらを歌った。シゲは潰れてしまったので、三人で歌った。あの日は四人で、乾さんの部屋でごろ寝した。
 男はそうやって大人になるんだ、と言っていたのは本橋さんで、乾さんはもっと深く事情を知っているのだが、軽い台詞は口にしなかった。
 そんなわけですこしは親しくしてもらえるようになった乾さんや本橋さんを見ていると、嫉妬と羨望で目が眩む。彼らはこじゃんともてるのだ。「こじゃんと」とは俺の故郷、土佐の言葉であるが、大阪弁実松であれば「めっちゃもてる」と言うだろう。
 ふたりともそんなにルックスがいいとは思えない。本橋さんも乾さんも俺よりいくらか背が高い程度で、並外れた長身でもないし、顔立ちもどうってことはない。醜くもないが美形でもない。女性の目にもそう映るのであるらしい。やはり歌か。あのふたりの歌が、女心をとろとろにさせるのか。
 男のシゲや俺が聴き惚れるしかないデュエットだったのだから、女性が聴けば数倍も惚れてしまうのだろうか。合唱部の一年生から四年生の女子が集合したら、その中の何人が、あるいは本橋さん、あるいは乾さんに恋心を抱いてる? 全校女子学生のうちの何人が? 部外者の女性までもを集めたら? うらやましくて涙が出そうだ。
 もてたいがために音楽を志すというのは、若い男にはありがちであろう。ロックバンドの連中なんぞには、そういう奴らが掃いて捨てるほどいる。俺の友人にもいる。ロックバンドではなくコーラスでもか。不純な動機なのかもしれないが、あんなにもてるんだったら、俺も歌がうまくなりたいなぁ、とこっそりひとりごとを言ってみた。
 不純な動機ばかりではないのだが、学業以上に合唱部活動に熱を入れているうちに、夏が来た。今年も合唱部の合宿が行われる。夏休みに海辺の合宿所で歌の猛特訓をしたら、その後には合唱部主催コンサートだ。秋には学園祭もある。合宿所に到着して、二年生の俺たちが一年生を指揮して掃除、布団干しなどなどをやっていたら、ちょこまかとやってきた坊やがいた。
「おう、三沢、さぼってないでちゃんと仕事しろよ」
 ちょこまか、という言葉がまたとなくふさわしい坊や、坊やといっても俺のひとつ年下でしかないのだが、小さくて細くて坊やにしか見えない。彼の名は三沢幸生、俺と同じテナーパートではあるのだが、声質はずいぶんとちがっている。
 多人数の新入生がいて、名前を覚えるのは一苦労だ。が、三沢はじきに覚えた。彼がキャンパスで女の子を口説いているところに通りがかったシゲが、そのあまりの舌の回りっぷりに驚愕と感嘆を覚えて話しかけ、話しかけたら途端に彼のペースに巻き込まれ、たじたじとなってなつかれて、俺までが巻き込まれてなつかれた。舌の回転も凄まじければ、人なつっこさも天下一品。新入生であるにも関わらず、三沢は早くも合唱部に旋風を巻き起こしていた。
「仕事もしてるんですけど、小笠原さん、なんだか……あのね、キャプテンと副キャプテンがね……」
 ただいまの男子部キャプテンは、四年生の渡辺さんだ。今春のキャプテン選出投票の際には、票が三つに割れた。僅少差ではあったものの、もっとも票を集めた渡辺さんがキャプテンと決まったのだが、残りふたりは本橋さんと乾さんだった。四年生たちは渡辺さんに投票したようだが、二年、三年は大部分が本橋さんか乾さんに一票を投じた。俺も本橋さんに投票した。
「そうすると、副部長は本橋に……」
 言いかけた渡辺さんを遮ったのは、四年生の溝部さんだった。
「キャプテンってのは歌の実力のみで選ばれるものではないだろう? 人望ってのか……いや、キャプテンも副キャプテンも、伝統的に四年生の中から選出されてきたんだ。三年生が四年生の頭を飛び越してキャプテンになるのはまちがってるよ」
 四年生たちが緊急会議を開き、副キャプテンは溝部さんと決定した。このたぐいの重大事項は最上級生たちが決めるのも、我が合唱部の伝統であるらしい。
 こっちこっち、と三沢に導かれてついていくと、合宿所の一室の前まで連れていかれた。三沢は仕事をさぼって合宿所のほうぼうを探検していたのだと白状し、ここで密談をしているのを聞いた、と話した。その部屋のとなりは空き室で、三沢はそちらへと俺をさらに導いて、小声で言った。
「壁に耳をつけてみて下さい。聞こえますよ」
「盗み聞きか。なにを話してるんだ?」
「いいから聞いてみて」
 ぼそぼそとふたりの男の会話が聞こえる。渡辺さんも溝部さんも声が低くて聞き取りにくいのだが、耳を澄ましていたら聞こえてきた。
「だから言ってるだろ。今年はデュエットなんかやらせなくてもいいんだよ。来年にはあいつらは四年生だ。今からああもえらそうにしてるんだから、俺たち四年生が卒業しちまったら、合唱部を牛耳るに決まってる。本橋にしろ乾にしろ、それでなくても目立ってるんだ。今年はおとなしくさせておこう」
 この声は溝部さん、続いて渡辺さんの声もした。
「本橋と乾のデュエットを楽しみにしてる、って言ってるひとは大勢いるんだよ。あいつらは一年生のときからやってるんだ。今年はやらせないなんて言えないよ」
「渡辺、悔しくないのか」
「悔しくなんかない。僕は……」
「そういうことだからなめられるんだ。おまえはキャプテンだぞ。キャプテンの権限で言えばいい。今年は趣向を一変する。毎年同じではつまらないから、乾と本橋のデュエットはなしだ。かわりにおまえと俺が歌おう」
「溝部、考えてみろよ。あいつらと僕らの歌唱力には格段の差があるじゃないか。去年も一昨年も、僕はあのふたりのデュエットを聴いた。感動した。こいつらはきっとプロとしてもひとかどのシンガーになれる。そう確信したんだ。僕も彼らのデュエットを楽しみにしてるんだよ」
「なにを甘いことを……」
 合唱部主催コンサートの話であろう。溝部さんの声は苦々しげで、渡辺さんの声には当惑が混ざりこんでいた。
「おまえがそんな甘ちゃんだから、三年生に軽視されるんだ。二年生だってそうだろ。キャプテン投票の日の屈辱を思い出せ」
「屈辱なんかじゃない。みんな知ってるんだ」
「放っておいたらおまえ、本橋を副キャプテンに推薦するところだったじゃないか。俺が止めなかったら、俺たちを差し置いてあいつらが合唱部のトップになっちまってたんだ」
「いいじゃないか。実態は本橋と乾がうちのトップだよ」
「俺は悔しいよ。俺たちは去年までは先輩たちにいばられてて、四年になってようやく、これで俺たちがいちばん上だって、そう思ってたのに、本橋と乾が……なんだって三年にいばられなくちゃいけないんだ。あいつらをリンチしてやりたいぞ」
「溝部、馬鹿言うな」
「馬鹿はおまえだろ」
 うへっ、大変、と俺のかたわらで聞き耳を立てていた三沢が、首をすくめた。
「溝部、うちは体育会系だなんて言われてはいるけど、野蛮な昔の運動部じゃないんだよ。リンチだなんて滅相もない」
「リンチは冗談だけど、本橋と乾に吠え面をかかせてやりたいんだよ。俺は昔からあいつらが気に入らなかった。思い出してみろ。あいつらが入部してきたころの話だ。覚えてるだろ、高倉さんに目をかけられて……俺なんか高倉さんには名前も覚えてもらえなかったってのに、本橋本橋、乾乾って、あのころから夜も眠れないほど悔しくて、腹立たしくて……俺が四年になったら、俺がキャプテンになったらって……くそぉ」
「キャプテン、譲ろうか?」
「そんな話はしてないんだよ」
 先刻からずっと、こんな話をしてたんですよ、と三沢が小声で言った。話に結論は出てないみたいで、かえって物騒な方向に行きつつあるなぁ、と腕組みをする三沢とふたり、その場を離れて悩みながら歩き出した。
 すでに合唱部では名物になりかけている三沢だが、彼がもっとも親しくしている上級生はシゲと俺だろう。キャプテンと副キャプテンの物騒な密談を小耳にはさみ、一年生の身としてはどうしていいやらわからずに、上級生に相談したかったのだろう。シゲはいなかったので、たまたま見つけた俺に声をかけた。そこは聞かなくてもわかるのだが、だからといって、俺にもどうしていいやらわからない。本橋さんや乾さんに告げ口をするべきか? そうしたとしてどうなる?
「キャプテンは乗り気じゃなかったから、溝部さんを諌めてくれるんじゃないかな」
 合宿所の外に出てから言うと、三沢はなにか言いたそうに俺を見返した。
「なにが言いたいんだ? 渡辺さんって頼りなさそうだしぃ、か?」
「やっぱ小笠原さんもそう思います? 先輩に向かってそういうことは言いたくないけど、そう見えるんですよね。溝部さんのほうが押しが強そうだし、渡辺さんはうっちゃられて投げ飛ばされません?」
「あり得なくもない。けど、俺にどうしろって言うんだ」
「どうしようもない?」
「ない。まさかな、野蛮な運動部じゃないんだから、闇討ちもおおっぴらなリンチもしないだろ。気にすんな」
「気にしないしかないのかぁ」
「ないんじゃないのか」
 会話の中心になっていた本橋さんと乾さんに、三沢が言いつけるつもりならそうすればいい。俺は聞かなかったことにしよう、と決意して、さぼってばかりいないで働け、と言うと、三沢は今さらながら駆け出していった。
 働けとは言ったが、宿泊準備はあらかた完了しているようだ。シゲはどこにいるんだろう? 女の子たちはどうしてるんだろう。女子も自分たちの分担範囲の掃除やらなにやらをしているはずなので、女子の部屋のほうを窺ってみたら、シゲはそこにいた。女子部の先輩たちに力仕事を仰せつかって、せっせと働いている様子だった。
 誰になにを言いつけられても、シゲは文句も言わずに黙々とこなす。使い勝手のいい奴だから、女子部でも重宝されているらしい。それがおまえの生きる道なのかな、と考えて眺めていると、雑巾を手にした女の子があらわれた。
「小笠原くん、ちょっとちょっと……」
「え? 俺?」
 彼女は俺と同じ二年生の柳本恵だ。雑巾がけをしていたらしい彼女の用事とはなんだろう。三沢のようにややこしい話を持ちかけたりはしないだろうな、と怪しみつつも、今度は恵についていった。
「あのね……あの……」
 水道は合宿所内にもあるのに、なぜだか外の水道へと俺を連れ出して、雑巾をゆすぎながら恵が口ごもっている。まさかまさか……と淡い期待を抱いていたら、彼女は言った。
「溝部さんって、小笠原くんから見てどんなひと?」
「どんなひとと言われても、ひとことでは言えないかな」
「ふたことでもみことでもいいよ」
「そんなによくは知らないし」
「だって、男子部の副部長でしょ? 私たちは男子部の先輩とは触れ合うチャンスが少ないんだよね。小笠原くんだったら同い年だから話もしやすいけど、四年生の先輩となんて気軽に話せないじゃない。でも、素敵なんだなぁ」
「溝部さんが?」
「そ。私は溝部さんの話をしてるの。ここまで言ったらわからない?」
 過日、俺は金がなくて昼メシが食えなくて、キャンパスでぼーっとしていた。そうしていたら女子部の先輩たちのランチタイムに出くわして、弁当やパンを分けてもらったのだ。そこに本橋さんと乾さんもあらわれて、女性の誰かが本橋さんにペットボトルを手渡し、水を飲んだ本橋さんをぽわんと見て、間接キス、だなんて嬉しそうに言って、本橋さんはむせていた。
 結果的には女子部の先輩たちに昼メシをおごってもらった形になったあの日には、本橋さんと乾さんに対する、きゃああ、ばかりを聞かされた。今日は溝部さんか。小笠原くんが好き、と言ってくれる女の子はいないのか。
 外見的には溝部さんは、本橋さんや乾さんよりかっこいいかもしれない。背も高いし顔もいい。合唱部の副キャプテンとなると、校内ではなかなかの有名人と見なされる。だが、先ほどの会話を聞いていた俺としては、ああいう男は勧められない、と思ってしまうのだ。そうと率直に言うわけにはいかないか、と悩んでいると、恵はなおも言った。
「溝部さんって、つきあってるひとはいるのかな」
「知らないよ」
「知らないの?」
「知るわけない。俺は溝部さんとはプライベートな話なんかしたこともないんだから。溝部さんってのは本橋さんや乾さんばっかり意識してて、一年や二年にはなん関心もないみたいだよ」
「なんとなく棘のある言い方だね。小笠原くんは溝部さんが嫌い?」
「嫌いってほど知らないって」
「ふーん」
 雑巾を堅く堅く絞って、恵は険のある目つきで俺を見た。
「本橋さんや乾さんって、合唱部ではナンバーワンの実力の持ち主なんでしょ。そりゃあ、四年生だって意識するよね。小笠原くんは嫉妬してるの?」
「本橋さんや乾さんにか? 俺が? 嫉妬するってのは、伯仲した実力の持ち主同士だろ。俺じゃあ本橋さんや乾さんを嫉妬の対象にもできないよ。そうなんだよな。溝部さんだってそうだ。乾さんや本橋さんに溝部さんが対抗意識を燃やしたり、悔しいから仕返ししてやりたいって考えたりするなんて、お門違いってやつだよ」
「なんのこと?」
「いいや、こっちの話し。俺は溝部さんはよく知らないけど、外見だけで好きになるなんて軽薄な真似はやめたほうがいいと思うよ」
「なに、それ? 小笠原くん、それってどういう意味?」
「どういう意味でもない」
 あからさまには言えないのだが、半ば言ってしまったようなものだ。恵は俺に向き直り、真っ向から睨みつけた。
「私が外見だけで男のひとを好きになる、軽薄な女の子だって言いたいの? 私がどうして溝部さんを好きになったのか、知りもしないくせに」
「知らないよ。知りたくもない」
「もしかしたら小笠原くんって、私が好きなの?」
「なんでそういう理屈になるわけ?」
「だって、そうじゃない。そうとしか思えない」
 徐々に恵の声が高くなってきていて、ひとりで納得して喋り続けた。
「そうだったんだ。なんだかおかしなことばかり言うと思ったら、小笠原くんは溝部さんに嫉妬してるんだね。私が小笠原くんを呼んだのを、自分に都合のいいように誤解してついてきたのに、私は溝部さんの話をしたから……ごめんね、私は小笠原くんには興味ないの」
「アホ、ボケ、わしもおんしになんぞなんの興味もないんだよっ」
「アホ? ボケ? なんてことを……」
「あ、おまえ、関東人?」
「そうだけど、それがどう関係あるのよっ!! アホとはなによっ!! 許せないっ!!」
 西の人間は馬鹿と言われると腹が立つ。東の人間はあべこべに、阿呆と言われると腹を立てる。知識としてはあったのだが、忘れていた。恵に呼ばれて淡い期待を抱いたのは事実だったので、痛いところを突かれたせいもあったのかもしれない。後悔してもあとのまつりだ。関東人に向かって、しかも女に向かってアホ呼ばわりをするとは、痛恨の大失敗だった。
 しかし、恵がアホな台詞をほざいたのも事実であって、あやまる気にもなれない。恵は憤怒の形相になって雑巾を投げつけ、それが俺の顔にモロに当たったものだから、俺もかっかと腹が立って、気がつくと雑巾を投げ返していた。
「うぬぼれんなっ、このアホ女!! ようもやってくれたな」
「なにすんのよっ!! この大馬鹿野郎っ!! 女の子に雑巾投げるなんて最低っ!!」
「おまんが先に投げたがやろがっ!!」
「あんたが馬鹿だからだよっ!!」
「アホに馬鹿と言われる筋合いはないがやっ!!」
「なに、その田舎くさい言葉。だっさーい!!」
「やかましい。わしは土佐の田舎もんちやっ。悪かったなっ!!」
 いつしか雑巾とともに罵詈雑言のぶつけ合いになっていて、止めたくても止まらない。これだけ声高に叫び合っていたら、仲間たちの耳に届くのも当然だろう。女子部の誰かと男子部の誰か……興奮していたようで、男子の先輩までもが誰だかわからなくなっていて、そのふたりが恵と俺の間に割って入ってきた。
 女子部の先輩は恵をなだめている。他の女子も、まあまあ、恵ちゃん、恵ちゃん、と彼女を止めている。男子部の先輩……誰だった? と一瞬考えてわかった。三年生の徳永さんだ。徳永さんは俺を難詰した。
「小笠原か。こんなところで女の子と大喧嘩だなんて……なにが原因だ?」
「原因は言いたくありません。お騒がせしてすみませんでした」
「彼女にもあやまれ」
「俺が一方的に悪いんじゃありませんから。お互いにあやまるって言うんだったらあやまります」
「柳本さんだっけ? 小笠原はこう言ってるよ。あやまる?」
「誰がっ!! いーっだ!! あんたなんか大っ嫌い! 二度と口きかない」
「口なんかきいてくれなくても……」
「小笠原、黙ってろ」
 彼女をどこかへ連れてってくれ、と徳永さんは女子部の先輩に頼み、女子が数人で恵を引っ立てていくと、他の男子もやってきた。数人の三年生の中に乾さんもいて、苦笑と呆れ顔のまざった表情で俺を見た。
「土佐弁と関東弁の一大舌戦ってのが勃発してるって聞いたから、土佐弁といえば小笠原かな、と思って来てみたんだけど、やっぱりそうだったのか。いいよ、みんな、ここは俺にまかせて。徳永ももういいから」
「小笠原はおまえの子分だったか? だとしたら、よけいなお世話だったのかな」
「よけいなお世話ではない。子分でもないから、止めてくれてありがとう、とも言わないよ。こういう場合はどう言うのが適切なのか、教えてくれるか、徳永?」
「おまえに教える言葉なんかない」
 なんだって徳永さんの台詞に皮肉っぽさが感じ取れるのだろうか。乾さんも本橋さんといるときのようにストレートなもの言いをしない。徳永さんと乾さんの仲とはいかに? とも俺は考えていたのだが、徳永さんが他のみんなを連れて行ってしまうと、乾さんは言った。
「風呂が沸いたみたいだから、入ろうか。服も顔も汚れてるぞ」
「あいつに雑巾を投げつけられましたから。俺も投げ返したんですけど」
「女の子の顔にか?」
「顔だったかどうかは覚えてませんけど、顔にも当たったかもしれない」
「なんたることを……言っとくけどな」
 急に表情を険しくさせて、乾さんは俺の顔に顔を近づけた。
「女の子とだって喧嘩はするだろうさ。女ってのは口達者だから、言いたい放題言われたら怒りたくなるのもわかる。口で応戦するのはいいよ。ただし、手は上げるな。ものを投げられても投げ返すな。男と女には体格差も筋力差もあるんだ。そこをわきまえずに女に暴力をふるう男は最低だぞ」
「むこうが投げてきたんですよ」
「たとえどんな理由があろうとも、たとえなにをされたとしても、女と喧嘩をしているときには、おのれでおのれを戒めてぐっと耐える。それが男だ。少なくとも俺の主義はそうだ。賛成できないか」
「いえ……」
「本橋だって男が相手だと簡単に手を出すけど、女の子にはやらないよ。本橋はさ、俺は男だ、ってのがポリシーで、時として馬鹿じゃなかろか、と思わなくもないんだけど、そういう部分のわきまえはある。おまえも男だろ」
「はい」
「うん、その部分だけは、俺は男だから、でいいんだよ」
「その部分だけですか」
 あとはまあ、臨機応変に、と乾さんは笑い、ふたりして合宿所の一番風呂に飛び込んだ。去年もこの風呂には入ったのだが、大人になりかけ、半分はガキっていう男どもの裸が、あっちにもこっちにも蠢いていてうっとうしいったらなかった。今日は広い風呂場に乾さんとふたりきり。清々しくてよい。
「原因は言いたくないって?」
「乾さんにはなおさら……」
「俺にはなおさら? 俺に関わりのあるなにかか?」
「いえ、直接の関わりはないんですけど……」
「間接的に?」
「間接……間接……うわ、変なことを思い出してしまった」
「話をそらすな、ごまかすな」
「そうじゃなくて……」
 間接キスにうろたえてむせていた本橋さんを思い出して、ついつい声を上げて笑っていると、乾さんは言った。
「間接的に俺に関わりのあるなにかで、おまえは彼女と喧嘩をした。ヒントが少なすぎる。俺は彼女とおまえの舌戦を聞いてないんだから、そこから推理するのも不可能だよ。言いたくないって言うんだったら無理強いもできないし、俺にはなんにもできないな。それでいいのか」
「よくはないのかもしれませんが」
「よくない? だったら言え」
「言えません」
 じーっと見つめられて見つめ返した。乾さんの目は……なんと言えばいいんだろうか。俺の心を読み取ろうとでもしているかのような? 乾さんはテレパスなんじゃないんでしょうね、とはぐらかしてごまかしてうやむやにしてしまいたくなっていると、風呂場のドアが開いて、三人の男が入ってきた。溝部さん、岡田さん、谷村さん、いずれも四年生だ。会釈する乾さんと俺を見て、溝部さんが言った。
「下級生が一番風呂か。いい気なもんだな」
「いけませんでしたか? 風呂は年齢順という決まりがありましたっけ? そうだとしたら申しわけありません。小笠原、出ようか」
「出なくてもいいけどな……」
 非常に含みのあるまなざしと口調だった。溝部さんは背は高いのだが、乾さんや俺とたいして変わらない細身の体格をしている。岡田さんは小柄だが、谷村さんはレスリング部に入ったほうが似つかわしいのではなかろうかと思えるごつい男で、容貌魁偉と言っても言いすぎではないかもしれない。ふたりともなにも言わずに目を細めて、乾さんをじろじろ見ていた。
「裸のつきあい、だなんてのもださい言いようだけど、乾、せっかく裸なんだから気持ちも裸にして話そう。岡田、誰も入ってこられないようにしてくれないか。乾と話したいんだよ。谷村はここにいてくれ。そっちのおまえは……」
「俺もここにいていいですか」
 出ていけと言われる前に口をはさんだら、谷村さんが俺をもじろりと見た。岡田さんは風呂場の前で見張りでもして、入ってきそうになった奴らを追い払うつもりなのか、黙って出ていった。
「先輩たちの話の邪魔はしませんから」
「いいけどな……なあ、乾、率直に言って、おまえは俺たちをどう思ってる?」
「俺たちとは? 溝部さんと渡辺さんですか? 合唱部の先輩でもあり、キャプテンと副キャプテンという両巨頭でもあると認識していますが」
「両巨頭だ? おまえのその口のききよう……正直に言え。軽蔑してるんだろ」
「軽蔑? なぜですか。俺が溝部さんたちを軽蔑する根拠はありませんよ」
「その口のききようは……おまえを見てると胸がむかむかしてくるんだよ。風呂場ってのはのんびりする場所だろ。こんな気分になったんじゃゆったりもできない。さっきおまえが言った通りだ。今年は入浴は四年生からって決まりを作る。三年以下はあとからだ。そっちのおまえは何年だ?」
「二年ですけど……ちっこいなぁ。なんたる小さなことを……」
「なんだと? おまえまで……二年生までが……谷村、そいつをつまみ出せ」
 なにをそんなに怒っているのかは知らないが、乾さんの口調にそこはかとなく漂う余裕のせいだろうか。つまみ出せと言われたそいつとは俺のことで、谷村さんは俺の両脇に手を差し入れて、軽々と持ち上げた。
「わっ! ちょっと……ほりゃあない……ほりゃあないろう……」
「ん? ヒデ、土佐弁か? なんて言ったんだ? いや、そんなことを言ってる場合じゃないな。谷村さん、いくらなんでもそれはよくありませんね。やめて下さい。つまみ出されなくても出ていきますよ。小笠原を離して下さい。やめて下さい」
 いいから放り出せ、と溝部さんは苛々した調子で言ったのだが、谷村さんは乾さんを見、ふーん、と呟いて手を離した。持ち上げられていたのはタイルの床の上で、身体が宙に浮いていたのだから、落とされていたらひどい目に合うところだった。間一髪、乾さんが俺の身体をささえてくれたので、なんとか無事にすんだのだった。
「うわわ……乾さん、すみませんっ!!」
「大丈夫だよ。おまえは重くもないから……行こう、風呂なんかあとでいい」
「はい」
 風呂場で裸でなにをやってるんだ、ってなものだった。風呂場で裸は当たり前なのだが、こんな格好ではシリアスな会話はできない。乾さんが溝部さんに頭を下げ、失礼しました、と言ってからつけ加えた。
「つまみ出したいんだったら、ひとの手を借りずに自らなさったらどうですか? これ以上言うと、先輩に向かって無礼な口をきいてしまいそうなので、慎んでおきますけど」
「おまえのその口が……谷村、遠慮なんかしなくていいから、こいつらふたりともほっぽり出せよ。なんだって途中でやめるんだ。おまえだったらふたりいっぺんにだってできるだろ」
「俺はおまえの言いなりにならなきゃいけないのか?」
 そのときはじめて、谷村さんが口をきいた。
「俺は溝部の腰巾着だなんて思われたくないな。溝部がいつもいつも本橋や乾を悪く言うから、そんなもんなのかと思ってたよ。俺は頭がよくないから、おまえの言ってることが本当なのかと思ってた。本当じゃなかったな。いやぁ、乾、俺はおまえが気に入ったよ」
「そうですか。ありがとうございます。どこを気に入ってもらったのかは知りませんけど、人間、好き嫌いってのは否めないんですよね。嫌われたりそしられたりするのも、気に入ってもらえるのも、先輩後輩の間にはありがちでしょう。では、失礼。湯冷めしそうだ。小笠原、出よう」
「はい。湯冷めは夏だからしないんじゃありません?」
「そう信じておこうか」
 出ていきながら振り返ると、溝部さんは目から炎を吹き出しそうな様子で乾さんを睨んでいて、谷村さんはしきりに溝部さんの肩を叩いていた。小笠原の言った通りだ、おまえの了見は小さい、と谷村さんが大声で言い、もっと気持ちを大きく持て、と溝部さんの背中をどやし、痛いっ!! と溝部さんが悲鳴を上げた。思わず笑いそうになったのだが、笑うととばっちりが飛んできそうだったので、俺は口を押さえて歩いていった。


2

 これ以上言うと先輩に向かって無礼な口をきいてしまいそうだ、と乾さんは言っていた。これ以上、とはなにが言いたかったのだろうか。風呂場の外にいた岡田さんは、俺たちには気づかないふりをしたのだが、乾さんは彼に言った。
「四年生は入ってもいいんだそうですよ。おつとめ、ご苦労さまです」
 恭しく岡田さんにお辞儀をして、なにもなかったみたいな顔をして、乾さんは服を着ている。真夏の海辺なのだから、服といってもTシャツにショートパンツだ。俺も同じような服を着て、ふたりで合宿所の外に出た。
「先輩ってのは……合唱部には……乾さんは……」
「なんだよ? 言いにくいんだったら言わなくていいよ」
「言いたいんですよ。乾さんは溝部さんを軽蔑する根拠なんかないって言ってたけど、今のあれはその根拠になりませんか」
「俺も言いたかったよ」
「軽蔑しました、って?」
「したよ。言わなかったのは風呂場だからだ。裸で喧嘩になったら格好がつかないだろ。乱闘騒ぎにでもなって、みんなが見にきたりしたらどうする? 女の子までが見物にきたらどうする? 谷村さんまでが怒って、見物人の真っ只中に裸で放り出されたらなんとする? みっともなくて合宿から逃げ出さないといけなくなるじゃないか」
「乾さんは乱闘なんかするんですか」
 すこし歩くとすぐに浜に出て、どちらからともなく海辺の岩に腰を下ろした。
「乾さんはそんなことはしそうに見えないけどな」
「したくはないよ。したくはないけど、やらざるを得ない場合もあるじゃないか。さきほどはそうなるかもしれない状況だったから、口を慎んでおいたんだ。彼女とふたりで入浴してて甘い口喧嘩にでもなって……ってんだったらいいけど、全裸の若い男が風呂場で乱闘だ? 色気もなんにもありゃしない。気持ち悪い」
「……そっちの経験はあるんですか」
「なんの経験?」
「だから、彼女と風呂場で甘い口喧嘩」
「してみたいなぁ、それだったら」
 ありそうだけどな……追求したら話してくれるかな。いや、そんな話を聞かされたら、リアルに想像して鼻血が出るかもしれない。聞かないほうが無難だろう。話題を変えようと、谷村さんは乾さんのどこを気に入ったんですかね、と尋ねようとしていたら、子供が近寄ってきて乾さんに問いかけた。
「お兄ちゃん、ちっちゃい女の子を見なかった?」
「うん? ちっちゃな女の子? きみの妹?」
「そう。夕ごはんの前に妹と遊んでたんだけど、妹が見えなくなっちゃったんだ」
 小学校の三年生だという彼は、観光客であるらしい。両親に連れられて海に泳ぎにきて、近くのホテルに泊まっている。乾さんが上手に話を聞き出してくれたところによると、彼の名はミツグ、妹はカエデ、幼稚園児の妹とふたりで遊んでいたら、目を離した隙に妹の姿が消えてしまったというのだった。
「カエデちゃんは五つ? このあたりで遊んでたんだね。背はどのくらい? 服はどんな? 髪の毛は?」
 カエデの外見を確認した乾さんは、ミツグに言った。
「よし、お兄ちゃんたちが探してあげるよ。きみはパパとママに言っておいで。心配なさってるだろうし、ちゃんと話してきたほうがいい。五つの女の子がひとりで遠くに行くとは思えないから、きっと近くにいるよ。ホテルの部屋番号はわかる?」
 ホテル海鳥、508号室、と告げたミツグの頭を撫でて、乾さんは言った。
「きみはしっかりした子だね。探してみて見つからなかったら連絡するから、しばらくホテルで待ってて」
 はいっ、と答えてミツグが駆け出していくと、乾さんは言った。
「ああは言ったけど、悪い想像だってできなくもないんだよな。とにかく探そう。ちっちゃな女の子が行きそうな場所……合宿所に入り込んだりしてないかな」
「うちの学生たちに手当たり次第に訊いてみましょうか」
「それが先決かもしれない」
 合宿所に戻ってみると、子供の泣き声が聞こえた。泣き声の方角は厨房だ。背伸びして窓から覗いてみたら、食事当番の学生たちが、小さな女の子を取り囲んで困り果てていた。
「乾さん、ビンゴ!! 大当たりですよ。ミツグの言ったのとぴったり。あの子でしょ?」
「まちがいないと思う」
「乾さんの勘って鋭いんだ」
「まぐれ当たりだけど、よくない想像は当たってなくてよかった。カエデちゃん、カエデちゃん……」
 窓から乾さんに名前を呼ばれて、女の子は泣き顔で乾さんを見た。
「カエデちゃんだね? 怖かった? もう大丈夫。パパやママのところに帰ろうね」
「乾くん、この子を知ってるの?」
「乾の知り合いか」
「親戚の子だとか?」
「隠し子だったりして……」
「乾くんって二十歳でしょ? この子は四つか五つ? 高校生のときの子供?」
「さすが乾さん。ませてたんですねぇ」
 男女の学生たちが口々に好き勝手なことを言うのを聞き流しながら、乾さんと俺は厨房に入っていった。カエデは泣きじゃくっている。泣いているので事情も聞けないのだが、兄ちゃんとはぐれて迷子になって、目についた合宿所に入っていき、お兄さんやお姉さんに驚かれ、質問攻めにされてパニックになって泣いてしまったのだろう。
 これこれこうで、と俺はミツグから聞いた話を繰り返し、そうだったのかぁ、そしたらもう大丈夫だね、とみんながカエデに言い、騒々しさに驚いたのか、カエデがますます泣き出し、食事当番のひとりであるらしき、山田美江子さんが言った。
「あのね、みんな、静かにしようね。カエデちゃんはうろたえてるんだよ。そうやってみんなしてやいのやいの言ったら、よけいに怖がるの。ね、カエデちゃん? もう泣かないの。はい、お鼻をかんであげようね」
 いやいやいやいやっ、とカエデはかぶりを振り、美江子も失格、と女子の誰かが言い、山田さんはふくれっ面になった。山田さんは全員を見回し、三沢に目を留めた。
「ためしにキミ、カエデちゃんに話しかけてみて」
「俺がためしに……俺がいちばん、この子に近いからですか。当たり? はーい、じゃあねぇ」
 たしかに、男女含めてここにいるメンバーの中では、三沢がもっとも子供に近く見える。声までが少年に近い三沢は、カエデの目の高さにかがんで言った。
「お兄ちゃんのミツグくんが、カエデちゃんを探してたんだって。お兄ちゃんに迎えにきてほしい? そうだよね。泣いてたら来てくれないよ。泣き止んで待ってようね」
「泣いて……いやだぁ!!」
 一瞬泣き止みかけたようなのだが、またしてもうわーんっと泣き出す。脅かす奴があるか、と三沢は先輩に怒られて肩をすくめ、やっぱり俺も失格でーす、とあとずさりした。
「俺には妹がふたりいるから、なんとかなると思ったんですけどね。今は妹もこんなにちっちゃくないし……誰かなんとかして下さいよぉ」
 そのころには騒ぎを聞きつけて、他の仲間たちもやってきて、厨房の出入り口付近で見物していた。シゲの顔も見えたと思ったら、カエデがシゲに飛びついた。
「パパっ!!」
 一段と騒ぎが大きくなる。乾くんの隠し子じゃなくて本庄くんのだったのぉ!? と女子の誰かが叫び、笑い声がはじけ、シゲはびっくり仰天でカエデを抱き止めた。
「シゲ、似てるんだよ、きっと」
 俺が言うと、シゲはきょとんとした。
「カエデちゃんのパパに似てるんだ、おまえ。乾さんの子供ってのはどう見ても無理があるけど、おまえだったらパパでもおかしくない。乾さんはホテルに電話しにいったみたいだから、もうじき迎えが来るだろ。それまでパパ代理やってろ」
「えー……そんな……ああ、あ……よしよし、うん、ああ……」
 パパ、パパぁ、とカエデにしがみつかれて泣きじゃくられて、シゲは狼狽の極地にいる。ほんとに似合ってるね、と山田さんが言い、俺も言った。
「五歳だそうだけど、カエデちゃんも女の子だもんな。よかったな、シゲ、はじめての経験だろ」
「……ヒデ、あとで覚えてろ」
「俺は忘れるけど、おまえは忘れないだろ。生まれてはじめて女の子に抱きつかれて泣かれて、ああ、幸せなひととき……」
「ヒデ、こっち来い」
「いやだね」
 ご両親に連絡したよ、本庄、頼む、と乾さんの声が聞こえ、シゲはカエデを抱き上げて観念のていになった。カエデは泣き続けていたのだが、ふと顔を上げてシゲを見つめ、わめいた。
「パパじゃないっ!! ゆうかいはんだっ!!」
 誘拐犯? そうだったのか、と言ったのは溝部さんだった。
「話は聞こえてたけど、迷子の女の子がここに入り込んだってのは、乾が勘を働かせたっていうんだろ? そううまく行くはずないじゃないか。見れば可愛い子だな。乾、おまえがさらってきたんだろ」
「……誤解曲解、返事もしたくありませんね」
「返事ができないってのはその通りだからだな。カエデちゃん、このお兄ちゃんに誘拐されたんだろ」
 溝部さんの指が乾さんをさし、カエデはきょろきょろと周りを見回して、なぜだかこっくりうなずいた。
「そら見ろ。誘拐された本人が認めた。乾、おまえはそういう趣味があったのか」
「カエデちゃんは頭が混乱してるんですよ。彼女の混乱に拍車をかけたのは溝部さんですね。ああ、ご両親が……」
 カエデの両親らしき男女とミツグの姿が見えると、溝部さんが彼らに言った。
「すみません。うちの後輩の乾がカエデちゃんを連れてきてしまったんです。ほんのいたずら心ですので、許してやって下さい。乾、おまえからも詫びろ」
「そればかりは承服できません」
 え? なに? え、え、え? といった調子になって、両親は顔を見合わせている。溝部さんはなおもなにか言おうとしたのだが、うしろから伸びてきた手が溝部さんの口を押さえた。誰だろう? と見やると、その手の持ち主は本橋さんだった。本橋さんは溝部さんをがっちりとらえ、身動きできないようにしている。両親はこそこそ話してから、父親が言った。
「どういうことですか? カエデは迷子になって、みなさんの合宿所に入ってきてしまったんでしょう? 乾さんはそう言って電話してきてくれたんですよね。ちがうんですか。乾さんがカエデを連れてきた?」
「そうではありません。そういうことを言ったのがいたずら心なんですよ。学生ってのは馬鹿が多くて、このような状況にも関わらず冗談口をきくんです。それについてはお詫びします。すみません」
「しかし……冗談にしては……カエデ、どうなんだ? このひとに連れてこられたのか?」
「んんと……わかんない」
 当の本人がわかんないと答えたものだから、両親は疑惑のまなざしで乾さんを見た。そうではありません、と証人になれる立場の俺も言おうとしたのだが、ミツグがきっぱりと言ってくれた。
「ちがうよ。僕がさっき言ったでしょ? カエデは僕と遊んでて迷子になったんだ。僕が探してたら乾さんと、そこにいるもうひとりのお兄ちゃんに会って、探してあげるからきみは帰ってなさい、って言われたんだよ。乾さんがカエデを連れてくはずがないのは、僕がよーく知ってる。そうだよね」
 質問は俺に向いていたので、俺は焦ってうなずいた。
「そうです。馬鹿な先輩が馬鹿なことを言いましたけど、乾さんはずっと俺といっしょにいたんですから、カエデちゃんを連れ出す時間なんかなかったんです。言っておきますけど、俺も共犯なんかじゃありませんからね」
「小笠原くんもひとこと多いよ」
「あ、山田さん、すみません」
「私たちもみんな知ってます。乾くんが連れてきたんじゃなくて、カエデちゃんはひとりでここに来ました。みんな、そうだよね? 食事当番の学生全員が証人になります」
 そうでーす、まちがいありませーん、と最初からここにいたみんなが声をそろえ、カエデも言った。
「んんと……そうだったよ。お兄ちゃんがいなくなっちゃってぇ……カエデはひとりで……お兄ちゃんやお姉ちゃんがいっぱいいて……うん、ゆうかいされてないよ。このおじさんが来て、パパかと思ったの。そんでね……パパじゃなくて……やだ、そっくりだ。ね、お兄ちゃん?」
「そっくりだね」
 このおじさんと言われたのはシゲである。他はお兄ちゃん、お姉ちゃんなのに、シゲのみはおじさんとは、気の毒といおうか、子供にはそう見えるんだ、諦めろ、と言ってやるべきか。シゲは諦めているのか否か、ぶつぶつとぼやいている。カエデの母親も夫とシゲを見比べて、ぷっと吹き出した。
「やだ、ほんとに似てる。カエデがまちがえるのも無理ないわ。お名前は? おいくつですか」
「本庄繁之、十九です」
「そしたらパパの半分の年なのに……本庄さん、ごめんなさい。だけど……笑えて……カエデ、本庄さんもお兄ちゃんだよ」
「ちがうもん。おじさんだもん」
 とにかもかくにも誤解はとけたようで、シゲそっくりの父親も、わかりました、と頭をかいた。シゲひとりがうなだれていて、みんなが笑っている。母親は躍起になって、本庄さんもお兄ちゃんなの、とカエデに言い聞かせようとするのだが、五歳児はかたくなに、ちがうもん、おじさんだもん、と言い張るのである。俺はシゲに近づいて肩を抱いた。
「……シゲ、泣いていいぞ」
「やかましい」
「誰もいないところで泣くか。俺の胸を貸してやろう」
「いらん」
「そうだ、溝部さんは? 本橋さんもいないな。この場はとりあえずおさまったようだから、あとは乾さんにまかせて、見にいこう。なにごとか起きてるかもしれない」
 カエデの両親に猜疑心を抱かせた元凶を、本橋さんがどこかに連れていったのはまちがいないはずだ。シゲとふたりで今度は本橋さんと溝部さんを探していたら、窓から見えた。いつしかとっぷり暮れた浜辺に、ふたつの長身のシルエットが見える。本橋さんも声は低いので、ふたりの会話は聞き取れない。どうしようか、と尋ねたら、シゲは言った。
「なにかあったのか? なんだ、さっきの溝部さん?」
「話すと長くなるからあとでな。けど、おまえも一部は知ってるだろ。溝部さんは本橋さんと乾さんを嫌ってる。乾さんの気性……ってほど俺はよく知らないけど、乾さんだったらともかく、本橋さんは……やばくないかな」
「なにかあったんだな。あとでって言うんだったらあとで聞くけど、殴り合いになるかもしれないのか? それはやばいに決まってる。止めなくちゃ。溝部さんが本橋さんを殴ったりして、その原因が理不尽なものだったら、本橋さんも黙ってないだろ。逆に本橋さんが先に手を出したら、先輩を殴ったなんてことで……」
「あんな奴、殴ってやればいいんだよ」
「あんな奴って溝部さんか? 駄目だ」
「なんで駄目だ? いいよ。本橋さんだったら溝部さんごときには絶対に負けない。あんな奴、めたぼろにされたっていいんだよ。俺も加勢したいくらいだ」
「ヒデ、アホ言うなって」
「アホでもボケでもなんでもええ」
「興奮するな。おまえは興奮すると方言が……」
「方言でもなんでもええきに。くっそーっ、溝部の野郎……改めて腹が立ってきた。俺も行く」
 行くな、行く、とこっちまでが言い争いになってきて、シゲが必死で俺を止める。止められると意地になって、窓から飛び出そうとしたら、浜辺のシルエットがひとつふえた。ものすごくごつい男。谷村さんだ。谷村さんは容貌に似ず声が甲高いので、彼の声は耳に届いてきた。
「本橋、いいよ。やれ」
 な、ななな、なんだとぉーっ!! と上ずった声は溝部さんだ。溝部さんの地声は低いのだが、上ずった叫び声は聞こえた。
「溝部はうちの副部長だし、本橋から見たら先輩だな。俺にとっては友達だと思ってた。しかし、おまえたちの話を聞いてて思った。溝部、おまえはそんな奴だったのか」
「……谷村……そういうことを言うな。友達だったらかばうのが……」
「おまえは俺を友達っていうより、ボディガードみたいに思ってるんだろ。今回はかばう気になれない。俺に頼るな。俺に頼らずに、本橋に殴られたら殴り返せばいいんだよ。見ててやるからやってみろ」
「……俺は暴力は……」
「暴力を使わないといけなくなったら、俺にやらせようとするんだよな。おまえと乾は見た目は似たようなもんだけど、乾のあの目……おまえよりよほど……そんなら俺とやるか」
「ま、まさか……」
「おい、本橋、どこへ行く?」
 しどろもどろになっている溝部さんと、声に怒りが含まれてきた谷村さんのそばから、本橋さんが遠ざかろうとしている。谷村さんに呼び止められた本橋さんの、最後の台詞だけが聞こえた。
「谷村さんが来てくれたおかげで、俺は先輩を殴らずにすみましたよ。溝部さん、いい友達を持ってよかったですね」
 言い捨てて歩き出す本橋さんを見て、シゲがあからさまに安心した表情になった。本橋さんが俺たちのほうに歩み寄ってきて、んん? 見てたのか? と呟いた。
「見てましたけど、話の内容は聞こえませんでした」
 俺が言うと、本橋さんは窓から飛び込んできて言った。
「聞こえなくていいよ。下らん話だ。腹減ったな。メシメシ」
 ひと騒動を起こした元凶のほうは、両親と兄に連れられてホテルへ帰っていったという。中断していた夕食の支度が大慌てで再開されて、広間に集合して食事の時間となった。合宿初日は定番のカレーライスだ。山田さんと乾さんと本橋さんとシゲと俺が、馬鹿でかいテーブルの一画に集まった。
「なんなの、あれ? 本橋くん、どこ行ってたの?」
 あれ、とは溝部さんだろう。しかめっ面の山田さんが問いかけ、本橋さんは、ほっとけ、と切り返している。乾さんも溝部さんには触れず、それにしても実に似てたな、とシゲとカエデの父親について言い、山田さんの気をそらせようとしていると見えた。先輩たちが言わないのなら、俺もこの場ではなにも言わずにいよう。あとでシゲにだけ話してやろうと決めた。
「似てません」
「似てるよ」
 似てない、と言うのは本人のみで、似てたよぉ、そっくりだったよぉ、実はカエデちゃんのパパは、本庄くんのお父さんの隠し子じゃないの? などと、遠くの席からまで声がかかり、シゲは真面目に返答した。
「カエデちゃんのお父さんは、俺の倍の年だそうですね。すると四十近いんでしょう。俺の親父はまだ五十です。四十近い子供は持てません」
「本庄くん、冗談だからね」
 笑いをこらえているような山田さんが言い、はい、とシゲがむっつり応じる。賑やかな食事風景が続いていたら、溝部さんがあらわれた。
「山田さんは女子とよりも、男子と仲がいいんだね。本橋と乾がきみの親友なんだったら、同室にしてあげようか」
「女子にも仲良しの子はたくさんいますから、お気遣いはけっこうです」
「風呂はまだだろ? 本橋も乾もまだだろ。そっちの下級生たちもまだだね。五人でいっしょに入る?」
「それもけっこうです。今日の入浴は四年生男子が先だって聞きましたけど、女子部はそういうことは言いませんから、女の子たちで適当に入ります」
「遠慮しなくていいんだよ。おまえたちは山田さんといっしょがいいよな」
 このねちねちした言いようはなんたるざまだろうか。溝部さんは本橋さんにも乾さんにも遺恨があるのだろうが、山田さんに矛先を向けるとは許せない。乾さんのまなざしが俺を牽制しているのは気づいていたのだが、俺はその目をはねのけて言った。
「軽蔑しますよ、たとえ先輩でも、たとえ副部長でも。あんたは低劣な男だ」
「今、なんと言った? もう一度言ってみろ」
「何度でも言うちゃる。あんたは世界一の低劣卑劣な男だよ。本橋さんがやらないんだったら俺が……殴れよ。先に手は出せないけど、殴られたら俺はやり返す。やれよ」
「おまえは誰に向かって……」
「あんただよっ」
 椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がって、溝部……こんな奴に敬称をつける気にもならない。溝部を睨み据えた。溝部は真っ赤になって俺を睨み返し、山田さんが俺の腕を押さえた。
「小笠原くん、やめなさい。みんなも食事中だよ」
「食事の邪魔はしたくないから、外に出ましょうか。溝部先輩、逃げますか。逃げるんだったらどうぞ」
 ううっ、と溝部は唸り、シゲも立ち上がった。
「ヒデ、やめんかい」
「シゲ、おまえも方言が出ちゅうぞ。止めるな。俺はもう腹に据えかねとるきにな。止めたらおまえも巻き込むぞ」
「やめろって。やめろやめろ。やめてくれっ」
「やめん」
 小笠原、おまえもそういう性格か、と嘆息して、乾さんも立ち上がった。
「なんだってそうなるんだよ。もめごとの解決策には殴るってことしかないのか。本庄、全力で小笠原を阻止しろ。ミエちゃんは本橋を阻止」
「わかった。本橋くん、駄目だよ」
「俺はなんにもしてないし、なんにも言ってねえだろ。離せ」
「離さない」
 シゲは両手で俺を押さえつけ、山田さんが本橋さんの腕をつかんでいる。乾さんは静かに言った。
「山田さんにそんなことを言うとは、恥ずかしくはありませんか?」
「な……な……いや……ただの冗談……」
「タチの悪い冗談ですね。溝部さんも食事になさったらいかがですか」
「……おまえたちは下級生の分際でよってたかって……もういい」
 溝部、いい加減にしろ、と冷静な声が聞こえた。渡辺さんだった。渡辺さんは俺たちからはだいぶ離れた一画で食事をしていたのだが、彼もまた立ち上がっていた。
「こっちに来いよ。腹がすいて苛々してるんだろ。いっしょに食べよう」
「腹なんか……もういい。ほっといてくれ」
 だだっと走り去っていく溝部さんを見送ってから、しーんとなってしまった一同に向かって、渡辺さんが言った。
「みんな、ごめんな。気にしないで。食べよう。だけどさ……な、乾?」
「はい」
「あいつ、いづらくなっちまうな」
「合唱部にですか。こんなときには比類なくいい言葉がありますよ」
「なんだ?」
「自業自得」
 澄まし顔で言う乾さんを見て、山田さんが言った。冷酷だねぇ、でも、その通りかも、だった。


3

すったもんだの合宿も終了し、いづらくなるんじゃないかとキャプテンが懸念していた溝部さんはなりをひそめたまま、夏の終わりのコンサートも終了した。溝部さんの横槍にはかまわず、キャプテンは本橋さんと乾さんのデュエットも決行し、去年は聴けなかった俺もはじめて正式に聴いた。感動するしかないステージだった。
 次なるイベントは学園祭だ。今年は一年生男子が大曲をコーラスするという。素晴らしい人材が入部してきたからね、とキャプテン渡辺さんが言い、誰だ、それ? と俺は首をかしげていたのだが、その歌を聴く機会に恵まれた。
 体育館にしつらえられたステージに、一年生男子たちが整列している。指揮は渡辺さんが執る。はじまったのは我が合唱部のテーマソングのひとつで、現在ではプロの作曲家になっている、大先輩の真鍋草太氏の作曲による歌だ。タイトルは「森の静寂と喧騒」。「森」のつく大学名だからこその「森」である。
 朝の森のしじまを縫って、目覚めた小鳥たちの挨拶が聞こえる。小鳥のさえずり……ひときわ高い声……木村だった。ひばりが飛び立つ。木村の声にからんでいくのは、テナーの男子学生たちの声。その中でも際立つ高い声は三沢だ。木村と三沢の小鳥のお喋りがかけ合いで耳を打つ。
 小鳥たちが森から飛び立っていき、小動物たちが駆け回りはじめる。樹々も歌っている。花々がざわめいている。花たちの囁きも木村と三沢の声。人間たちも足を踏み入れる。朝から昼へ、昼から夕方へ、夕方から夜へ。そして森が寝静まり、今夜も静寂が訪れ、バスパートの男子のふくろうの声……男声で繰り広げられるシンフォニーだった。
 静かになった森の中に、人間のカップルが入り込んできた。どこかでかすかに聞こえるのは獣の寝言か。愛し合う男女の男性のほうが、セレナーデを歌う。女性も彼に応えて歌う。男声パートは木村、女声パートは三沢だ。素晴らしい人材とは木村と三沢だったのだ。合唱部を馬鹿にしていると三沢はロック好きの木村を評していたが、あいつはこんなにも実力があるんだ、愕然に近い気分だった。
 「森の静寂と喧騒」はとりわけ、テナーの喉の見せどころだ。俺もテナーパートだけれど、少々ハスキーヴォイスがかった俺の声では、小鳥のさえずりや女性の歌うセレナーデはこなせない。三沢と木村の歌声には、俺はいささかの嫉妬を覚えた。乾さんや本橋さんならば、凄いなぁ、と感嘆していればいいのだが、後輩たちとなると妬みが起きる。俺も人間の器が小さいようだ。
 高らかなひばりの歌声が、合唱が終わったあとまでも耳元に残った。木村の声はまさに天高く舞うひばりだ。三沢の声は花の囁きか、星のきらめきか。俺には歌えない。
 とは言え、学生である俺たちには勉強もある。今日の俺は勉強に頭を使っていた。
 英語で書かれた本を読み、英語で読書感想文を提出せよ、だそうだ。大学教授って人種は学生に無理難題を吹っかけるのを無上の喜びとしている奴らなのだと恨みながら、片手にスプーン、片手に英語のペーパーバックを持って頭を悩ませていた。
 ピラフの味がわからない。本の内容も頭に入らない。先に食ってしまおうかとスプーンをピラフの皿に突き立てたつもりが、がつんと硬いものに当たった。あれっ? 皿が消えちまった、ときょろきょろすると、女の子の笑い声が聞こえてきた。テーブルの脇に立って皿を持って、屈託もなく笑っているのは柳本恵だった。
「なにすんだよ。俺の昼飯返せ」
「なにを読んでるの?」
「英語の課題だよ」
「なんて本?」
「日本語だと「薔薇の葬列」って訳すのかな。もとは日本語の小説らしいんだけど、アメリカでも評判になってるってんで英訳されたのを、本屋で見つけたんだ。日本の小説のほうが英語でもわかりやすいかと思ったんだけど、むずかしすぎる」
「私、英文科だよ。見せて」
 屈託なく話しかけてくるのだから、俺も無愛想にするわけにもいかない。英語教授の無理難題を話している間に、恵は俺の向かいにすわり、ざっと本を読んでいた。
「……小笠原くんにはこういう趣味があるの?」
「こういう趣味って?」
「薔薇でぴんと来ない?」
「薔薇?」
「そういう趣味がないんだったら、読まないほうがよさそう。いわゆる男性同性愛がテーマの小説みたいだよ。しかもかなり過激。その趣味のない男性が感想文を書いたらどうなるのか、私は興味あるけどね」
 そんな趣味はなーい、と答えると、恵はくっくと笑った。
「小笠原くんにはそんな趣味はなさそう。わかるよ」
「その本、やる」
「そおお? だったらもらっとく。面白そうだもん」
「面白くないだろ」
「面白そうだよ。ねえねえ、ものは相談なんだけど……」
 声をひそめるので、俺も自然に声をひそめて恵の顔に顔を近寄せた。
「キミ、英語は苦手なんでしょ?」
「図星だ」
「そんなら感想文を手伝ってあげるから、私の手伝いもして」
「なんの手伝いだよ」
「今日はバレンタインデイだよね。チョコレートもらった?」
「義理チョコってのはもらったけど、おまえも俺にくれるのか」
「小笠原くんになんかあげない。そうじゃなくて……前にも言ったじゃない」
「溝部さんか? まだ諦めてないのか」
「どうして諦めなくちゃいけないの?」
「おまえだって合宿で溝部さんのあのふるまいを……」
「そんなの関係ないもん」
 あのようなふるまいをする男は、女子部では悪評ふんぷんになっているものだとばかり思っていた。山田さんにしても眉をひそめていたのに、恵はへっちゃらだというのか。
「溝部さんにチョコレートを渡したいんだけど、気が引けるじゃない? 私って引っ込み思案のひとなんだよね。シャイで内気で気が弱いの」
「シャイと内気は同じ意味なんじゃないのか。英文科なのに……」
「英文科は関係ないでしょ。強調したの。私ってそういう性格だから、好きな男のひとに直接アタックできないのよ」
「ほおほお、そうなのか。知らなかったよ」
「小笠原くんは知らなくてもいいの。だから、手伝ってよ」
「どうやって?」
「どうやったらいい?」
 知るか、と言いそうになったとき、店のドアが開いた。ここは我々の大学から程近くて、食欲旺盛の男子学生がよく来る定食屋だ。女子はなにかと言えばダイエットなので、大盛りが売りのこの店にはあまり足を踏み知れないようだが、安くてうまくてボリュームたっぷりの店は、男子学生御用達といっていい。
 窓辺の席にいた俺を、通りがかった恵が発見し、魂胆を持って近づいてきたのであるようだが、入ってきたのは乾さんだった。乾さんは食欲旺盛タイプではないはずなのだが、恵と俺を見つけたからなのだろうか。いい? と問われてうなずくと、乾さんは俺のとなりにすわって、コーヒーを注文した。
「恵ちゃんとヒデは仲直りしたんだな」
 そういうわけでも……と言いかけたら、恵が横から言った。
「はい、仲良しになりました」
「よかったじゃないか。シゲは?」
「シゲは図書館で苦戦しています」
 今年の合宿でだいぶ親しみが増して、乾さんはヒデ、シゲと呼ぶようになっている。乾さんは食事はせずに、コーヒーを飲んでいる。俺のピラフは恵がつついていた。
 課題提出のためだとか、試験勉強だとかで、図書館は満席に近かった。俺もはじめはシゲと並んで勉強していたのだが、落ち着かなくて出てきた。腹も減ってきたので、昼食時間には早いけれど、メシを食いがてら英語の本を読むつもりだったのだ。時間になるとこの店も男子学生で満杯になる恐れがあるのだから。
「乾さんは英語は得意ですよね」
 尋ねると、乾さんは苦笑してかぶりを振った。
「俺は国文だよ。英語は苦手だ」
「文学部は英語は必須でしょ。乾さんは本を読むのも好きみたいだし、英語による読書感想文っていう難題を助けて下さいよ」
 あー、ずるい、と恵は俺を睨んだのだが、俺はそ知らぬふうで言った。
「英語の本を読むってだけでも死にそうなのに、英語の感想文なんか書けません。乾さん、お願いします」
「アドバイスだったらするけど、勉学は自分でやらないと身につかない。甘えるな」
「……アドバイスだけでも……」
「英語の読書感想文だな。初心者だったら簡単な本を読むといいんじゃないか。子供向きの本でも……これを読んでたのか?」
「あ、あ……」
 テーブルに恵が置きっぱなしにしていた「薔薇の葬列」を乾さんが手にした。英語は苦手だと言うのならば、乾さんには読めないかもしれないと思っていたのだが、ぱらぱらと中身を呼んだ乾さんは、なんとも言えない顔で俺を見た。
「……ふーん」
 急いで頭を横に振ると、恵が口をはさんだ。
「ちがうそうですよ。どんな内容の本なんだか知らずに読んでたそうです。乾さん、流し読みで意味がわかったんですか」
「なんとなく」
「それだったら英語が苦手なんて嘘じゃないですか」
「嘘じゃないけどね……この装丁や表紙を見たって、なんとなくはわかるじゃないか」
「このあたりには挿絵も……」
 恵がそのページを開こうとし、見たくないっ、と俺が言うと、ふたりして笑った。
「なににしたって、この本はむずかしすぎるよ」
「そうですよね。私がもらったんだから、私が読みます。小笠原くん、乾さんはきびしいんだから、優しい私が助けてあげるよ」
「交換条件出したくせに……」
 ふーん、と乾さんが言った意味は、恵の前振りがあったらばこそわかったのだ。乾さんと恵の間には話が通じている。変な本を買ってしまって後悔している俺をほったらかして、乾さんと恵は会話を続けていた。
「乾さんは国文?」
「古典文学専攻だよ。恵ちゃんは英文科か。ヒデは心理学だよな」
「心理学専攻のわりには、小笠原くんって鈍いですね」
「男はおおむね鈍いんです」
「乾さんは鈍くないみたい」
「俺だって鈍いよ」
「三沢くんはけっこう鋭いんじゃありません?」
「あいつは変なふうにね」
 そういえば、三沢はこのところやけに静かだ。どうしてるのかな、と思っていたら、乾さんが言った。
「木村がやめちまったんだよ」
「合唱部をですか」
 初耳だった。三沢幸生と同学年の木村章とは三沢に紹介されて多少は親しくなっていたのだが、合宿にも来ていなかったし、近頃は姿を見ないと感じていた程度だった。
「合唱部は当然だし、学校もだよ。木村はロック志向だと聞いてたから、そっちの道に進んだのかな。木村は特異なほどに高い声を出す、うちでは稀有な存在だったのに、惜しいな。だけど、渡辺さんも強くは引き止めなかった。やめると言っている者を無理に残しても、合唱部のためにも彼自身のためにもならない。本橋は渡辺さんに言われたんだそうだ」
 次期キャプテンはおまえなんだから、こういうことだってあるかもしれない。やめるという決意の固い者に足枷をかけるなよ、と渡辺さんは本橋さんに言ったと、乾さんは淡々と話した。
「そうだったんですか。だからなんだな、三沢の元気がないのは……」
「そのようだな。そればかりでもないらしいけど……」
「そればかりではない?」
「本人に聞け。それはそうと、交換条件って?」
 鈍いなんて本当に嘘ばっかりだ。乾さんは聡い。微弱なテレパス能力があるのではないかと、俺は何度目かに思った。恵もしんみりしていたようだが、乾さんの質問に身を乗り出した。
「乾さんのほうがいいかなぁ。ここで会ったのもなにかの縁ですよね。小笠原くんの読書感想文は、自分でやらないと身につかないんでしょ?」
「その通り」
「私のお願いは、自分でやらなくてもいいですよね」
「お願いってなに?」
 チョコレート、と恵は呟き、溝部さん、と付け加えた。乾さんは鈍くなんかないので、それだけで察したらしい。
「乾さんはチョコレートをいーっぱいもらったんでしょ?」
「俺のことはどうでもいいんだけど、恵ちゃんは今どきの女の子だろ。バレンタインデーにチョコレートを渡すくらい、怯んでてどうするの。彼はけっこうライバルが多いよ」
「女ってアホ……」
 言いかけたら、恵にはぎろぎろっと睨まれ、乾さんにも言われた。
「よけいなことを言うな。で、恵ちゃん?」
「んんと……だって、私、シャイだから」
「誰がじゃ、誰が……」
「ヒデ、よけいなことを言うなと言っただろ」
「……チョコレートを渡すだけだったらできなくもないですよ。だけど、溝部さんを好きな子って、合唱部以外にもいるんでしょ? 素敵なんだもの。溝部さんって背が高くて顔立ちも綺麗だし、かっこいいんだもん。私は差別化をはかりたいんです。乾さん、お願いします」
 うーん、と乾さんは考え込み、もはや俺はどうでもよくなったらしく、恵は乾さんを見つめていた。
「恵ちゃん、本気? じゃあね……」
「乾さん、俺は賛成できませんよ。あの溝部さんですよ。あんな男に……」
「あんな男とはなに?」
「恵ちゃんもヒデもちょっと待て。恵ちゃんはひとまず抑えて、ヒデ」
「はい」
 うん、たしかにそういうところはあるんだけど……と言ってから、乾さんは口調を改めた。
「溝部さんに可愛い彼女ができたら、変わるってこともあるじゃないか。恵ちゃんは気性が強いから、彼には似合うんじゃないかな。恵ちゃんが溝部さんをサポートしてあげて、彼の相談にも乗ってあげてくれたら、溝部さんはいいほうに変化していくかもしれない。恵ちゃんは彼が合宿の際になにを言ったりしたりしたのかを見聞きした上で、それでもつきあいたいと言ってるわけだろ。溝部さんのためにはいい話だよ」
「俺はあんな奴のためなんて考えたくもないし、こんな女にサポートなんてできるはずも……」
「ヒデ、こんな女とはなんだ」
「どうして乾さんが怒るんですか。こんな女でしょうが。あのときだってそうだったし、気性が強いんじゃなくて、気性が滅茶苦茶なんですよ」
「小笠原くん、黙って聞いてたらなによ?」
「じゃかましい。この異常気象の台風女」
 なおも言い募ろうとしたら、乾さんに頭を張られた。
「いてぇ……あ、言いすぎました」
「おまえだって恵ちゃんの気性をそうよく知ってるわけでもないだろ? おまえもその気性をすこしは抑えろ。とりあえず、恵ちゃんの告白のサポートはするよ。サポートだけだよ。肝心のところは自分で言うね?」
「できるものだったら、溝部さんから告白してもらいたいなぁ」
「……ドあつかましいにも程が……」
「ヒデ、やめろ」
 まったく、乾さんときたら女の子には甘いんだから……その傾向があるのは知っていたが、ここまでだとは思わなかった。俺にばっかり怒って、恵には甘い顔を見せる。腹が立ってきたのだが、腕をつかまれて立たされた。
「恵ちゃんは待ってて。溝部さんに話してくるよ。男子部の部室にまだいるはずだ。ヒデ、おまえは俺と来い」
「俺はメシの途中です」
「おまえをここに残すと、恵ちゃんとつかみ合いをはじめる恐れがあるだろ。いいから来い」
 女の子には甘くて男には強引なのか。これでは本橋さんと変わらない、とむかっ腹を立てつつも、しようがなくついていくと、乾さんは言った。
「今どきの女の子でも、告白は男からしてほしいものなんだな。勉強になるよ」
「はあ、そうですか」
「女の子にもよるんだろうけど、恵ちゃんはそのタイプなんだ、って程度かな」
「打算でしょうが。自分から告白するよりも男にさせて、私はこんなに好かれて望まれて、彼の恋人になったのよ、って。けっ、だから女ってのは……」
「そう言うな」
「言います。乾さんは柳本には甘すぎだ」
 ふふっと笑って、乾さんははかばかしい反応をしない。歩いていく乾さんについていくと、合唱部男子部室に入っていった。俺は溝部なんて奴は顔も見たくないので、外で待っていた。しばしののちに、乾さんは大きな紙袋をぶら下げて出てきた。
「溝部さんにはそれとなく言ってきたよ。あとは当事者同士の問題だから、俺が関知する必要はない」
「どっちでもいいんですけどね……なんですか、その紙袋は? ひょっとしてチョコレート?」
「うなされそうだ。俺が甘いもの嫌いなのはおまえも知ってるだろ。どうしようか。捨てるわけにもいかないし、児童施設に寄付するだなんて、偽善者めいてて自己嫌悪に陥りそうだし、バレンタインデーなんか……ああ、いや、贅沢を言ってはバチが当たる。これから毎日チョコレートを食おう。昼メシはチョコレートにしよう」
「なんでしたら俺が引き取りますが」
「おまえももらったんだろ? みんなこのくらいはもらうんだろ?」
「……鈍いんだか聡いんだかわからないひとですね、乾さんって。手がむずむずする」
「なぜだ?」
「いいです。俺はメシの途中だったんだから、でかいの下さい」
「俺がもらったのをおまえにってのも……おまえは好きか」
「甘いのは好きですよ」
「なんでそんなにぶすくれてるんだ? 本橋もたくさんもらってたぞ」
 甘いもの嫌いの本橋さんや乾さんのもとには、大嫌いなチョコレートが山ほど集まり、甘いもの好きな俺のもとには、ちっこい義理チョコがいくつか集まった。世の中ってのは無情なものである。俺がなにを怒っているのかわかっていないらしい乾さんを見ていると、いっそう腹が立ってくる。
 乾さんの手の紙袋を覗いてみると、チョコレート以外にもプレゼントらしき包みも見えて、乾さんをぶん殴りたくなってくる。そうはできないので、代償行為だかなんだか、天を仰いで絶叫したくなった。


 もてるのもてないのという会話は、男同士ではどこでもここでも展開されている。どうやらシゲには、俺の知らない徳永さんとのエピソードがあったようなのだが、それがなんであったとしても、徳永さんはもてるだろう。もてないわけがない。それはそれとして、俺は高校二年のおりの話を、思いつくままにシゲに語った。
「高知の高校に美人教師がいたんだ。大学出たてだったから、二十二、三歳の可愛い女だった。俺は十六だったんだけど、彼女に恋しちゃったんだよ」
「六つも年上?」
「七つだったかもしれない。けど、年の差なんかものともせずに口説いた。口説いて口説いて口説き倒した」
「七つも年上の教師……ヒデ、それは……」
「それは、なんだよ? 恋に年の差なんか関係ないだろ」
「そうかなぁ」
 恋愛に年齢差は関係ないというのは建前であって、実際には年齢差は障壁になる。まして高校生男子と女性教諭だ。スキャンダルと言っても過言ではない。が、恋の障壁は恋心を燃え盛らせる。たぎり立つ活火山と化した互いの恋心は止めようもなくなり、彼女と俺は駆け落ちを決めた。
「か、駆け落ち?」
 どれほど見開いてもシゲの目は細いのだが、その目を最大に見開いて、シゲは俺の手を取った。
「ヒデ、それはやはりまずい……」
「まずいのどうのなんて考えられなかったんだよ。俺たちは夜明けの駅のプラットホームで待ち合わせして、誰にも知られないところへ行こうと言い合った。ふたりの恋の新天地を求めて旅立ったんだ」
「それからどうした?」
「大阪まで行ったんだ。隠れるには都会がいい。人口の多い都会の雑踏にまぎれて、ふたりして暮らした。蜜月ってあれだよ。都会には仕事なんていくらでもある。食ってくだけだったらどうにでもなる」
「結婚はできないよな」
「俺は十六だったから、法律上も結婚はできない。制度上の結婚なんかしなくても、ふたりは幸せだったんだ。「ガラスの部屋」って歌、知ってるか」
 うん、とシゲは答え、口ずさんだ。

「床のきしむせまい部屋で身体寄せて眠ったね
 いつかおまえ、こんなとこから
 連れ出すと誓った闇の中で」

 そう、そのまんまの暮らしだった、と俺は言った。
「大阪のごみごみした下町の、日も射さないせまい部屋で、身体を寄せ合って眠っているのが幸せだった。彼女は俺にぞっこんだったんだよ。わかるだろ」
「あ、ああ、まあな」
「だけど、俺ってなんて罪深い男なんだろ。俺だって彼女に惚れてたんだけど、都会の女には目移りしちまって、いつしか心が揺らめいた。金もない暮らしでは彼女はやつれていく。俺の気持ちも荒んでくる。そうしていて俺は別の女に恋をして……」
「おまえはそんな奴だったのか」
「そうじゃないつもりだったけど、あんな暮らしだと気分が荒れてくるんだよ」
「だとしても……そんなのないだろ」
「そうか、シゲ、おまえはいい奴だな。彼女のために怒ってくれるんだな」
「それからどうしたんだ?」
 次第にシゲの顔が険しくなっていく。俺はシゲの手を握り返した。
「おまえっていい奴だけど、素直すぎるよ」
「どういう意味だ?」
「架空の話で怒るなよ」
「怒るよ。そんな奴……そんな男……ええ? 今、なんと言った?」
「怒るなって」
「その前だ? 架空の話?」
「なーんて経験をしてみたかったな、と言おうとしてたのに、おまえが怒るから言うのが遅れたんだよ」
 むむむっとなって黙ったシゲは、俺の手を振り払い、その手をげんこつにして俺を殴ろうとしたらしい。しかし、思いとどまったように唸った。
「……シゲ?」
「単純で馬鹿で……嘆かわしい。いい奴だって言われても嬉しくないぞ。いい奴ってのはつまんない奴だって意味だろ」
「そうは言ってないよ。おまえは純粋にいい奴だ」
「徳永さんもそう言った。おまえはいい奴だなって……あれはどういう意味だ」
「前後の話がわからないんだから、どういう意味かなんて俺にわかるわけないだろ」
「おまえも鈍感なのか」
「おまえに言われたくないんだよ」
 全部が全部嘘っぱちか、とシゲに迫られて、俺は言った。
「美人の先生を好きになったのはほんとだよ。けど、高校二年のガキが六つも七つも年上の先生を口説けるか? できっこないだろ。すこし考えてみたらわかるだろ。こっちはにきびもぽつぽつ出てるガキだぞ。そんな高校生を教師が相手にすると思うのか。おまえには常識がないのか」
「う、うん、そりゃそうだよな」
「高校生と駆け落ちする女性教師なんてのは、ドラマか映画の世界にしかいないんだよ。嘘だと見抜けないおまえが悪い」
「そうかなぁ」
「なのに本気で怒って、馬鹿がやないがか」
「ヒデ……土佐弁」
「土佐弁でも三重弁でもええきに。シゲ、もうちょっと深く考えてから反応しろよ」
「そうだな」
 肩を落として深く考えていたらしきシゲは、目を上げて俺を見た。
「今のは俺が悪いのか」
「そうだろ? 俺は悪くないよ」
「んんん……釈然としない」
「こんな話をした相手が乾さんだったら? 三沢だったら? 木村だったとしても、疑いを挟むだろ?」
「本橋さんは?」
「本橋さんだっておまえよりは深く考えるよ」
「だろうな」
 で、と俺は逆に質問した。
「徳永さんとなにがあった?」
「夏の合宿で、おまえ、言っただろ。シゲも溝部さんが本橋さんと乾さんを嫌ってるってのの一部は知ってるだろ、だったか。知ってるよ」
「知ってて当然だろうけど、徳永さんがからんでくるのか」
「うん……あ、これは口外無用なんだ。あれもこれも言ってはならないことなんだよ」
「言いかけたんだろうが。言えよ。言ったらすっきりするぞ。シゲ、吐いてしまえ」
「俺は犯罪の容疑者じゃない」
 もう一息だったのに、結局シゲは口を閉ざし、なにがあったのかは聞けずじまいだった。しかし、俺の作り話にシゲが本気で怒りかけたのもごまかせて、悪いのは俺なのかなぁ、とシゲに考えさせるのは成功したようだから、半分はよかったのだろうと考えておくことにした。
 なりゆきがころんでころがってこうなったのだから、もてたとは言いがたいだろう。そんな相手の柳本恵をシゲに紹介した帰り道、俺は言った。
「口外無用だからな。言うなよ」
「誰も知らないのか」
「知らないんじゃないかな。社内恋愛、深く静かに進行せよ、って格言があるだろ」
「社内恋愛? まあ、近いか。それって格言か?」
「ことわざか」
「……さあ……慣用句か?」
「なんでもええきに……また土佐弁が……ああ、もう、それもどうでもええ、どうでもいいっての。おまえは? おまえは初体験もまだなのか」
 うぐぐっとなったシゲは、ほっとけ、ほっといてくれ、と口の中で言っている。図星であるらしい。
「本橋さんも乾さんもお盛んみたいだけどな。あんまりよくは知らないし、とうに別れたみたいだけど、本橋さんと下川さんはつきあってたんだよな」
「下川さんと?」
「覚えてないか。俺たちがはじめて、本橋さんに声をかけてもらったときだよ」
「ヒデは土佐、俺は関西の出身だろ、って言われたときだよな」
「覚えてるんじゃないか。あんときに下川さんもいただろ」
「うん、覚えてるよ」
 あれは二年前、俺たちが入部して間もない時期の飲み会だった。本橋さんが下川乃理子という女の子と話していて、ふと顔をこちらに向けた。その場には乾さんと山田さんもいた。俺たちに声をかけた本橋さんはじきに下川さんに向き直り、下川さんの出身地あてをやっていた。
 彼女のなまりやらなにやらから、本橋さんは下川さんの出身地を言い当てた。すげぇなぁ、と俺は感心したのでよく覚えている。シゲもそれは覚えているようだ。
「あれから本橋さんは、三沢や木村の出身地も当てた。特技なんだよな」
「そうみたいだな。だけど、下川さんは?」
「あの日、俺はちらっと見た。本橋さんと下川さんがいっしょに帰ってたんだ。しばらくしてから下川さんに探りを入れたら、彼女は……」
「そういう探りを入れるか、普通。おまえは下川さんが好きだったのか」
「下川さんじゃなくて、本橋さんに興味があったからだよ」
 あの年のキャプテンは金子さんで、副キャプテンの皆実さんと金子さんは、むろん合唱部では有名人だった。彼らに次ぐ有名人は本橋さんと乾さんだったのだから、興味が向くのは当然ではないか。俺は下川さんに訊いてみた。
「淡路島出身だって言い当てられたってのは、恋のはじまりになるもの?」
「……なに、それ?」
「とぼけなくてもいいでしょ。下川さん、本橋さんに恋したんだろ」
「なんで……なんでわかるの? 本橋さんが言ったの?」
「俺は本橋さんとはろくろく口をきいたこともないよ。女の子はいいね。そうやって仲良くなれるんだもんな、俺も本橋さんとお近づきになりたいなってのか……紹介してくれない? ってのは変?」
「変だよ。紹介なんかしなくても、小笠原くんは男子部のメンバーじゃないの」
「そうだったね。失礼しました」
 意外に素直な彼女は、なんでわかるの? と言ったのだから、まちがいなかったのだろう。その話をすると、シゲは言った。
「そっか、そういうわけだったのか。今ごろになってあのシーンの意味がわかったよ」
「あのシーン?」
「口外無用のシーンだよ」
「それが知りたいんだけどなぁ」
「言わないったら言わないんだ」
 こういう奴なのだから、恵についての口外無用の約束も律儀に守るだろう。別れてしまったはずの下川さんと本橋さんが関わっているらしきシーンよりも、今の俺には恵に関わる秘密のほうが大切だ。
「柳本さんは知ってはいたけど、いつの間にそうなったんだ?」
「なんとなくなんとなく……そういう恋ってのもあるんだよ。おまえもがんばれよ」
「ほっとけ」
「ほっとくと一生彼女もできないんじゃないのか」
「ほっとけったらほっとけ」
「恵の友達を紹介してもらうか」
「……ヒデ、おまえもいい奴……哀れんでるのか」
「アホらし」
 大学三年生ともなると、考えなくてはならないことがらが山積しているというのに、俺には世話の焼ける親友もいる。二十歳にもなって女の子と寝たこともないらしきシゲの将来を思うと俺までが暗くなりそうなのだが、恋なんてはたからお節介を焼いてどうなるものでもない。
「リリヤには初恋だったのか」
「初恋の定義ってなんだ?」
「知らん」
「定義はないのか。初恋? わからん」
「まったくもう、だから……」
「どうせ俺はもてないよ。泉水もおまえも、好きに言ってろ。どうせもてないよっ」
「まあまあ、シゲ、落ち着け」
 おまえはもてないから、とシゲに言っては、ほっとけ、と言い返されるのが俺たちの日常会話ではあるのだが、俺だってたしかにたいしてもてない。大学に入ったばかりのころに同じ心理学科の女の子に惹かれて、デートに誘ってみたら、汚らわしげに言われた。
「私は勉強するために大学に入学したのよ。入学早々デートだなんて、そんな暇はないんだから」
「勉強も大切だろうけど、楽しまなくちゃ。青春やきにな」
「青春? ださっ。やきにな、ってなに?」
「青春だぜよ」
「なによ、それ? 変な言葉」
「わしは土佐の出身……もうええわ」
「わし? やだ、おじいさんみたい」
 誰にも話してはいないが、その後にまで彼女は言ったのだった。
「青春やきにな? はしてる?」
「……ふられた女とは口をききとうない」
「土佐って高知だよね。若い子もわしって言うの?」
「わざと言っただけだよ。普段は俺」
「俺? 田舎者なんだったらわしでいいじゃない?」
「おまえはつくづく意地の悪い女だな。おまえなんかを好きだと思ったわしがまちがってた。寄るな、近寄るな」
「……言葉がまぜこぜになってるよ」
「じゃかましい。あっち行け」
「品がよくないね。だから田舎者なんてのは……やっぱりね、都会の男性がいいわ、私」
「お伺いしたいのですが、都会生まれであるらしきあなたのご出身地は?」
「仙台よ」
「宮城県か」
「仙台です。仙台は都会よ」
 あっそ、だった。今ではあれは笑い話だが、一時はトラウマになっていた。恵は茨城県出身で、茨城なんて高知よりもっと田舎だよ、と言うので、私は都会人よ、と取り澄ましている女よりはずっといい。
 合唱部の女性たちにしても、本橋さんが好きだの乾さんがいいだの、金子さんはかっこいいだの皆実さんって素敵だの、徳永さんってセクシーだよね、だのと先輩たちの噂ばかりする。恵も溝部さんが好きだったころがあるのだが、今では、溝部さんとつきあわなくてよかった、だから小笠原くんとこうなれたんだよね、と言ってくれる。シゲに話した高校教師は俺のほのかな片想いにすぎなかったのだが、高校時代には彼女もいた。
 合唱部では同学年の宮村ミコちゃんにちょこっと好意を持ったりもした。合唱部ではなかったら、シゲの幼なじみの瀬戸内泉水とデートのようなものをしたりもしたが、泉水ちゃんから見ればデートとも呼べないつきあいだったのだろう。そんなこんなも遠くなり、今では俺の恋人は恵だ。恵と静かな恋に浸っていればいい。もてなくてもいい。
 とりあえず俺には彼女がいるけれど、シゲはなぁ……と危ぶんでみても、俺にはどうしてやることもできない。シゲはシゲで我が身を処していくしかない。俺たちには恋以上に大事なものができたのだから、となったのは、三年生も終わりに近づいていたころだった。
「こうなってみたら、就職が決まってなくてよかったんだよな」
 本橋さんと乾さんから、プロのシンガーズを目指して励もう、と言われてうなずいた日、シゲと俺はシゲのアパートで酒を飲んだ。
「結果的にはそうだったのかな。ヒデ、がんばろうな」
「うん、がんばろう。乾杯しようぜ」
「寒いのにビールってのもなんだけど、ワインやシャンパンってガラでもないしな」
 シゲは中学生のころからの合唱部育ちだ。俺は高校生までは卓球部にいた。土佐弁は東京ではださい、田舎者だといわれるし、卓球ってのもださいかなぁ、と思って、かといって今さら別の運動クラブってのもなぁ、と悩みつつ、各サークルが新入生の勧誘に力を入れているキャンパスを歩いていた。
 あれも二年前、仙台生まれの自称都会女にふられたころだった。そのときには名前も知らないひとだったのだが、俺に声をかけたのは徳永さんだったのだ。
「そこの彼、歌は好き?」
「好きですけど……」
「うん、きみだとテナーだな。合唱経験は?」
「ありません。テナーってテノール? 俺の声、そんなに高いですか」
「歌うとテナーだよ。俺も合唱のパートはテナーなんだけど、話す声はきみより低いだろ。話し声と歌う声は必ずしも一致しないんだよ。歌ってみない?」
 は、はあ、となって、マイクを手渡されて歌った。カラオケでならば歌った経験もあるので、気持ちよく歌っていたら、徳永さんは言った。
「きみの声は俺の声にいくぶん似てるね。俺は歌うとさらにハスキーになるんだけど、きみのハスキーヴォイス……ってほどでもないかな。ほどよくかすれ加減のいい声してる。デュエットしてみようか」
「え……合唱部の先輩とデュエットですか」
「やりづらいか。だったらうちに入れよ。きみの声は磨くと極上品になるよ」
「お世辞でしょ」
「いいや、俺が保証する。きみは末はプロにもなれるよ」
「ほんとかなぁ」
 歌っていたとき以上に気持ちよくなって、ついふらふらと入部を決めた。入部してから徳永さんに尋ねたら、返答はなんともそっけないものだった。
「俺がおまえを勧誘した? そうだったっけ。手当たり次第に声をかけたから覚えてないよ。新入生の勧誘には二年生が駆り出されて、どうせやるんだったら必死でやろうってわけで、熱心に誘ったんだよな。プロになれるって言った? 誰にでもそう言ったんだ」
 やはりお世辞というか、出任せであったようなのだが、徳永さんのおかげで将来への道が見えたのかもしれない。その話をすると、シゲは言った。
「俺は勧誘されて入部したんじゃないよ。最初から合唱部に入るつもりだったんだ。うちの大学の合唱部がなかなか名高い部だとは知らなかったんだけど、本橋さんや乾さんとめぐり会えたのは合唱部を選んだからだよな」
「俺とも三沢ともだろ」
「そうだよな。するとおまえも俺も徳永さんとは縁があるんだ」
「おまえの徳永さんとの縁ってのは聞いてないぞ」
「口外無用」
「そればっか」
 そんな会話も思い出し、シゲのアパートで俺は言った。
「徳永さんの前ではじめて歌った歌を歌おう」
「なにを歌ったんだ?」
「夢伝説」
 ラヴソングだが、タイトルは明日に向かって走ろうとしている俺たちにふさわしいだろう。

「遠い昔のことさ 夢で見たんだ
 燃える空に包まれて
 光る大地の中を駆けめぐるとき
 君は舞い降りてきたの」

 キャンパスで徳永さんに勧誘されたあのころよりも、ずっと高らかな声が出るようになった。シゲが独特の低い声でハーモニーをつけてくれる。乾さんの歌声は高く、本橋さんの声は低いのだから、いつか本橋さんが言ったように、シゲと俺も歌の方面でもいいコンビになりつつあるのだろう。
 さらにあとひとり、実にバラエティに富んだ声を出せる三沢幸生も加わって、明日から俺たちは歩き出す。「夢伝説」ではない、夢でも伝説でもなく、真実のものとするために。
 どこのサークルにだって噂話や伝説ってものはあるのだろうが、合唱部にもいくつもあった。いつかは俺たちのフォレストシンガーズも噂となり、伝説となって合唱部に流布されていくのだろうか。そのころには俺たちは、ひとかどのシンガーズになっているだろうか。

END

 
 
 
 
 


 

 
スポンサーサイト


  • 【小説3(風のロマンス)】へ
  • 【小説5(いつか俺にも)】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

おもしろかった~!

今回のパートが一番おもしろかったかも!です。
人間ドラマが濃かったというのか。
人物の心理と背景とイベントがものすごくうまく絡み合って流れていて、惹き込まれました!
こんな風に熱い絡みが描けないfateって実はあんまり人間が好きじゃないのかも…とちょっと愕然とするくらい、ある種官能的で、刹那的で、感動しました。
いろんな人物からの目線で同じ時間・空間を描くだけで、こんなに世界は急激に広がって、こんなに密度が濃くなるものとは!
勉強になります(><)
乾くん、大活躍でしたね。彼の言葉にはものすごく共感するところがありました。
女性は男とは身体の作りも役割も違う、的な台詞など。
実際、それは本気で思います。男が女の子に暴力をふるうなんてことは絶対に許せません。女は命を育むものです。世界を慈しむ存在であり、世界を生みだす聖なる存在です。
…が、それを逸脱している女は女とは思いませんが(--;
今、DVは、被害者が夫…というケースもあるそうですから、そういう女は別ですね。体格・体力のハンデがあるから、女性は守られるべきであって、体格が逆だったら、それは立場も逆でしょう。
ああ、何故、関係ないことを(><)すみません!

いずれ、今後の展開が益々楽しみです。

fateさん、ほんとにいつもありがとうございます。

同じシーンを別視点で描く。
フォレストシンガーズストーリィを書いていて、それは強く意識しています。fateさんがそこに目を留めて下さったのも嬉しいです。

DVというものも、昨今は女性から男性へ、というのもあるそうですね。
男だろ、女の暴力なんてへっちゃらだろ、とえてして言われがちですから、被害者の男性は気の毒ですよねぇ。
そういうことにも興味がありますので、おりに触れては書いてますけど、うまくまとめられません。

私は構成が下手だなぁ、と、他の方の小説を読んでいる実感します。
私こそ、fateさんの作品には勉強させていただいております。

ドラマを観ているようです^^

こんばんは!

様々な人物が合唱部を通して複雑に重層的に絡み合い、まるで質の良い実写ドラマを観ているようでした。
このお話、良い感じでどんどん膨らんできますね。

しかし今回一番驚いたのは、人間的には問題ありすぎな溝部さんがイケメン(死語?)だったことと、恵ちゃんの「恋は盲目」っぷりです。

どんなに大人ぶっても、所詮はせいぜい22歳ですもんねえ…みんな青春真っただ中!!

有村さん、いつもありがとうございます

有村さんのイメージでは溝部くんは(彼は姓のみで名前がありません。このタイプ、もっと掘り下げて書いてみたいのですけど……むずかしいのですよね)、どんな感じだったのでしょうか?

長身美形好きの著者としましては、たまには長身美形でありながらいやな感じに性格の悪い奴を書こうかと思いまして、それで溝部くんのルックスはこうなりました。

イケメンって死語ですかぁ?
流行語は古びる一方だから使いたくなくて、しかし、ハンサムなんてもっと死語だし、私は「美形」をよく使いますが、本来、これも女性をさすのですよね。

「美女」という言葉は永遠ですよね。すると「美男」でいいのでしょうか。
こういう言葉も悩むところです。

「同じシーンを別視点で描く」というのは面白そうですね。それにとても勉強になりそう。物語の『抜け』も発見できそうですし。

ぷぷぷ(笑) シゲ、かわいそう。でもおもしろい!
合宿所の食堂でカレーライスを食べながらのシーンもおもしろかったです(さいごに乾くんが「自業自得」と言ったのが凄く「オチ」がきいていて笑えました)。いいな~、山田さん。好きですよ、こういう女性。

「森の静寂と喧騒」のステージのシーンはみごとでした。
うーん、実際に見て聴いてみたい!
じっさい、青年合唱団というのはとても迫力があるものなのでしょうねぇ。とくに目の前で聴いたら。

おお!「薔薇の葬列」がでてきた。
あかねさん読んだことあるのですか?
私はないのですが、たしか映画化された作品ですよね。

う~ん、恵ちゃんが溝部さんを好きなのが理解できな~い!
溝部さんのどこが好きなんだろう・・・(やはり外見か・・・
いやいや、もしかしてほんとはヒデに気があったりして・・・
しかし溝部さんは意外にもモテるようですね(やはり外見か・・・
あ~、さすがだなあ、乾くん。おとなだなあ~

・・・と思ったらやっぱり!
やはりヒデは恵ちゃんと付き合うことになったんですね~
そうなると思ったんだ!(笑)

続きもとても楽しみです。
ああ、木村くんが気になるなあ・・・

西幻響子さま、ありがとうございます。

同じ出来事を別視点で描く。
手書きではないからこそやれる気もしますけど、フォレストシンガーズをこうしていくつもの視点で書いている、著者のこころみとしましては、それもけっこう重要視しています。
読んで下さる方には退屈ではないかと、気が引けたりもしつつ書いております。

うちのミエちゃんは、読んで下さった女性が「いいなぁ、このひと、うらやましいな、私も美江子みたいになりたいな」と感じて下さるように、というのが目標なのですが、ちょっとは近づけているでしょうか。

おじさん合唱団だったら、ステージを聴いたことがあります。
おなかが出ていたり、髪が寂しくなっていたりする年配の男性たちがかっこよく見えたものです。
私はステージに立った経験はほとんどありませんので、こういうシーンは見るほうの視点になってしまうのですよね。あのライヴ、このライヴを思い出し、ミュージシャンに夢の中で質問していたこともありました。

「薔薇の葬列」……すみません、私が勝手に作ったタイトルだったんですけど、実際にあるんですね。タイトル通りにそういうお話なのですね。
いずれ、読んでみたいです。

きゃはっ、読まれてしまってましたか。
そうなんですよ、ヒデと恵ちゃんは恋人同士になりました。今後また、このふたりのストーリィも出てきますので。

ロック少年章のストーリィも、このあとに出てきます。
気にして下さってとっても嬉しいです。

それから、別小説のグラブダブドリブ「魔法使いの島」というのはロックバンドのお話ですので、よろしかったら……グラブダブドリブのショートストーリィもあります。

それからそれから、フォレストシンガーズのイメージイラスト、見ていただけましたか?
ブログ画面トップにありますので、見ていただけたら嬉しいです。
響子さんのイメージとはいかがでしょうか?

こんばんは。
いやあ、乾くんって、やっぱり男気のある、カッコいい男ですね。
風呂場のシーンで特にそう思いました。
でも溝部に「ちっこい」っていった、小笠原君もいい。
若者たちの、まだ青くて熱いぶつかり合いが、とてもリアルで新鮮です。
溝部の鬱陶しさが、絶妙でしたw

最初、これは誰の一人称なんだろうと、しばらく考えてしまう時間があったので、そこがすぐに分かったらもっと入って行きやすかったかな、と感じました。

でも、皆さんかおっしゃるように、とてもわくわくするぇエピソード集でした。
これで、フォレストシンガーズの面々が出そろいましたね。みんないい子たちばかり^^

始動の日が楽しみです。

limeさん、ありがとうございます

誰の一人称かすぐにはわからない。
たしかにそういうときがあるんですよね。
これって読んで下さる方はどう思われるんだろ? と考えていたのですが、それについてのご意見をいただいたのははじめてでした。

やっぱりそうですよね。
最初から誰が語っているのかわかるようにすべきなんですよね?
これ、誰だろ? と読んで下さる方が頭をひねって、ああ、そうか、となるのもいいかなぁ、などとも考えていたのですが、たいへん参考になりました。
ありがとうございます。

今後ともお気づきの点は教えて下さいね。
貴重なご意見はためになります。
そちらも楽しみにお待ちしておりますので。

NoTitle

うわぁ~、流れます。流れていきますよ、お話が・・・^^

各方面からの支流が真ん中の本流に集まってくるかのようです。

森の字の大学(?)の部活、体育会系ですね。
お風呂は4年からですか。
いいじゃんねえ、もう入っちゃっているんだし?
裸の大乱闘もちょい見たかった・・・いや、すいません。。。

乾さんがすばらしく大人ですね。
言うことに器を感じます。頼りになる。

三沢さんと木村さんの掛け合い、男声シンフォニーがとても良かったです。ステージをもっと見たいですぅー^^

私は関東の人です。じゃんとかいう所の出身です。
ヒデちゃんが興奮すると土佐弁になれるのがうらやましいです。
京都弁とか、習いたいです。

けいさんへ

近頃の京都人はあまり京都弁ってのは使わなくて、大阪弁に似た感じになってきてますが、独特のイントネーションみたいなものはありますね。

関西弁のアクセントだとか、標準語(関西では東京弁とも申します)←→大阪弁の翻訳(?)だとか、そういうご質問がありましたら、ぜひ。
しかし、文章では伝わりにくいかもしれませんね。

とおっしゃいますと、けいさんはうちの三沢幸生と故郷が近いのでしょうか。

このあたりのストーリィは、フォレストシンガーズ五人プラスふたりの学生時代でして、視点ちがいで時期はおよそ同じ。
何本もの流れが集まってきているというのは、たしかにその通りですね。
素敵な形容、ありがとうございます。

お風呂場での裸の大乱闘……想像中。
いえね、私、乱闘シーンなんて書けないんですよぉ。
もうちょっと勉強して、今度書きます。
いつになりますことやら。

NoTitle

確かにイイ声の人ってモテますよね。
心地よい声を聞いてるとニヤけてしまいます。
(顔がよかったらもちろん文句ナシですけど)

英語といえば私もサッパリで。。。ヒドイものです。
それなのに何故か外人の人に声をかけられる・・・仕事中ですけど。
言いたいことは何となく身振り手振りでわかるけれど、
こっちの言いたいことは何一つ伝えられず・・・・。
まったくもって切ないです。

こうして読んでると、実際に歌を聞いてみたくなります。
歌の上手な人たとに演じて欲しくなります!!

ハルさんへ

ハルさんのお好きなタイプの声ってどんなのですか?
私はフォレストシンガーズでだったら、シゲとシンちゃんの声が好きなはずです。

シンガーの声としては本当は、美声じゃないほうが好きなんですけど、フォレストシンガーズはヴォーカルグループですから、こういうグループの方、だいたいは美声ですものね。

私も英語、まるっきりです。
数年前にロンドンに行ったとき、なぜかバス停で道を聞かれて、咄嗟には「私は旅行者です」とも言えなくて、NO NO NO!!と叫んだというていたらく。とほほ、でした。

フォレストシンガーズがドラマになったら……きっと私は嬉しすぎて恥ずかしすぎて、まともに見られないと思いますよ。
でも、やってほしいなぁ。
ハルさんがそんな想像をして下さるだけでも嬉しいです。
ありがとうございました。

前回のコメント返しになりますが。
基本的にLandMが表記しているものは才条 蓮に帰属してます。
それ以外の人がコメントする場合は()の表記を使っています。
今までコメントしているのは才条 蓮です。
才条 蓮の文体やコメントは確かに独特とよく言われます。
どこが独特かは未だによくわからないのですが。
この独特な文体のせいで、壮絶に才条 蓮を嫌いになる人も結構います。
今まで4,5人は壮絶に嫌いになられたなあ。。。
・・・ま、それはともかく。
せっかく独特と言われたので、らしくコメントします。


なんとなくですけど、海の背景が意味が分かってくるような気がします。
あかねさんがそれを意識しているかはともかくとして。

深い海の中で感じる温かさを感じる恋を感じます。
心は海と似ているところがありますからね。
海の中は冷たくて、その中で感じる人というぬくもりは貴重なものであります。
だけど、その人の深い心に入るためには
海に少し深く潜らないといけないのであって。
深く潜ろうとする中に他の人がいて、邪魔と感じる。
それが結局、今回のように喧嘩になるんでしょうね。。。

若いっていいですね。
その人の心に潜って、奥底まで理解しようとしてぶつかるんですから。


・・・さて、次からは普通にコメントします。
失礼いたしました。。。


LandMさんへ

あの猫のお話も才条さんが書かれてるんですよね?
なんと申しますか、うまく表現できなくて申し訳ないんですが、いい意味でゆーったりした感じと言いますか、嫌いだとおっしゃる方もいらっしゃるのですか?
あの文体を嫌いな方って、せっかちなんですかね?

私もせっかちですけど(^^、才条さんの文章を読ませていただくと、ああ、才条さんだ、ってふうで、楽しい気持ちになりますよ。

なんであっても好き嫌いってありますものね。私の書いてるものも、興味が持てない、好きになれない、って方はいらっしゃるようで。それはそれで仕方ないかなと思っています。
小心者ですので、批判されるよりもスルーしていただくほうがありがたいですね。

疑問にお答えいただいて、ありがとうございました。

私は水が好きです。
流れる、動く水が好き。
川と海が大好きで、前世は魚だったのかと思っています。

そういうのが無意識にあらわれるんですかね。絵はあまりわかってませんけど、水のある風景画が好きですし。

人は海から生まれたのですよね。
心は海に似ている……深くて素敵なお言葉をありがとうございました。

NoTitle

ヒデさんのお話をと思ってこちら読みました。
色んな人の性格が分かって面白かったです! ヒデさん書かせてもらう前にこちら読んでおけばよかっ……(T-T)
恵さんはこういう女性だったんですね。何だかんだで二人は付き合っちゃうんだ(^-^;
乾さんいいですね♪うちのマークと蘭々にも説教してやってほしいです(笑)私も生まれ変わったら乾さんみたいになってチョコいっぱいもらいたい……!

シゲさんはいいキャラしてますね(笑)ヒデさんといいコンビです(笑)

たおるさんへ

こんな長いのも読んで下さって、ありがとうございます。
ヒデのストーリィは少なめですが、他にもあるにはあります。

http://quianred.blog99.fc2.com/blog-entry-470.html
こんなのもありますので、お暇なときに見て下さいね。

恵ちゃんはこういう女性です(^o^)
このあと、なんだかんだでふたりは恋人同士になり、だけど、情熱はないなぁ、なんてお互い、思っているようです。

たおるさん、チョコレートほしいですか?
来年のバレンタインにはプレゼントしますね。
……どうやってプレゼントしようかなぁ。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【小説3(風のロマンス)】へ
  • 【小説5(いつか俺にも)】へ