ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS冬物語「最終バス」

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フォレストシンガーズ

「最終バス」


 波乱もあった人生で、バツイチってやつではあるが、もう一度結婚して子どもも持って平和な家庭を作りたい、作れたらいいなと希望は持っていた。
 三十近くなって放浪もやめるつもりで、神戸の電気屋で働くようになった。町の小さな電気屋は配達、取り付け、こまめなアフターケアをモットーとしているので、人との出会いもけっこうある。

 放浪していた時期には無口な男だと思われていたようだが、生来、俺は人なつっこくてお喋りな人間だ。町のおじいさんやおばあさんとも、勤務先のヒノデ電気のおじさんおばさんにも、ヒノデ電気の息子にも、アルバイトの青年にもすぐになじんで気安くなった。

 そんな中でももっとも興味のある人種にも、むこうから誘ってもらって恋人同士になった。
 つきあって下さい、の告白は俺がした。はじめてのベッドインも俺から誘導した。彼女、真中ゆり絵さんは俺よりも四つ年下で、東京から神戸に単身赴任中。独身でも単身で来ていれば単身赴任だろう。

 背は低いほうだが、グラマラスな体格をしていた。俺は胸の大きな女性が好きだから、外見的にも好みに合う。気難しいところもあるが、このくらいだったらお互いさまだ。欠点のない人間なんていない。俺だって欠点だらけなのだから。

 夏の終わりに京都に出かけ、ユリと呼ぶようになっていた彼女にプロポーズしようかと思っていたら、口を開く前にユリに先を越された。

「ヒデさん、私にとってはいい知らせが東京から届いたの」
「東京、から?」
「ヒデさんには言ってなかったけど、私は本社に戻りたかったのよ。神戸支社は小さな支社だけど、数年はそっちで我慢して、今度戻ってくるときには栄転だから、って、本社から転勤になったときに上司に言われたの。だから我慢してたの。我慢が実ったんだよ」
「そ、そうか」

「神戸も嫌いではなかったけど、私はやっぱり東京が好き。東京と較べたら神戸は田舎だもんね」
「そらそうかな」
「だからね、ヒデさん、短い間だったけどありがとう」
「それは?」

 別れると言うのか。言葉にできず、俺はユリを見返した。
「神戸も離れるとなると楽しかったな。神戸での最後のいい思い出ができた。ヒデさんのおかげだよ。ありがとう」
「礼なんか言うていらん」
「どうしたの? 怒った?」

 そのすこし前にも俺は別の女にプロポーズしていたから、ひと夏に二度もふられたのだ。
 生涯で初のプロポーズは一応は実ったが、あれだって恵が、できちゃった、と言ったからこその求婚だった。二度目はあっさり断られ、三度目はプロポーズする前にぶっこわれた。

「東京に戻るのは冬になるから、それまではごはん食べたりってつきあって」
「ベッドも?」
「それでもいいけどね」
「……やめとこう」

 恰好をつけて背を向けて、ユリには二度と会わないつもりだった。
 しかし、彼女の神戸での住まいは俺のアパートからは近い。彼女のほうは俺のことを現地恋人程度に考えていたようで、こだわりもなく顔を合わせると声をかけてくる。寝てもいいのよ、と思っているのかもしれないが、それだけは我慢した。

「ヒデさん、東京に帰る日が決まったの」
「ああ、それはおめでとう」
「節約してバスで帰るの」
「バスって深夜だろ。送っていこうか」
「ほんと? 嬉しいな」

 ちゃっかりしたところのある女だから、断りはしない。なんだって俺はユリの前ではええかっこしぃになってしまうのだろう。俺も大学は東京だし、結婚していたときにも関東にいたから標準語は喋れるんだというところを見せているうちに、彼女の前では土佐弁も神戸弁も使わなくなっていた。

 最後のドライブ。ヒノデ電気の営業車の助手席で、ユリは東京の話をしていた。俺たちには未来なんてものはない。別々の未来ならあるけれど、なんにもはじまりはしない。完全な終わりに向けて俺が運転する車が走り、バトンタッチしたバスが東京へとユリを連れ去っていく。

「話したいこと話せないままだ
 最終バスがもうちょっとでやってくるのに
 つめたい風 見上げた神戸の星空が
どこまでもずっと続けばいいな

 君を連れてく最終バスが来て
さよならを言わなきゃいけなくなって
いつものように泣かないなんて
その意味もわかっていたよ
 何も変わらない僕らでいよう」

 歌手になりたかったという過去の話はしたから、ユリは俺に歌ってほしがった。ユリの好きな京都は賀茂川の河原で、彼女のためにラヴソングを歌ったりもした。
 今夜はユリが歌っている。この歌にはなにか意味があるのか? ただ、バスに乗るというのでセンチになって、バスの歌を選んだだけなのか。

「やわらかい風、見上げた東京の夜空、ってのを替えたね」
「気がついた? さすがだね」
「……ユリさんの声はセクシーだな」
「そう? ありがとう。ヒデさんはこんなふうに、私と……」
「ん?」
「ううん、いいの。言ってもしようがないもんね」

 きみのほうこそ、俺と別れるってのを惜しんでくれているのか? そうと尋ねてもしようがないのは同じだ。俺はユリが神戸にいたひとときの遊び相手。俺だって楽しかったんだからそれでよかったのだ。

END







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~ Comment ~

このもどかしさは

なんだろうな。ほんと、あかねさんは心情を書ききらず、シーンを切り取るのがお上手ですよね。皆までいわない、という……・
でも、ありがちだわ。二人とももしかして相手が引きとめてくれるのを待っていたのかもしれないのに(でも、そうでもないかも)、何か言ってくれるのを待っていたのかもしれないのに(でも言葉にしちゃったらやっぱりダメになるのかも)……そのバランスの世界。そこにばっさりと切り込むように「最終バス」
上手いなぁと思いました。
大人って……いえ、恋って、ほんと、まっすぐ行かないものですね。

大海彩洋さんへ

いつもコメント、ありがとうございます。
昔、私の小説を読んでくれたひとが、「書かない部分が大切だ」と言ったのですね。無意識的にもそれにこだわっている部分があると思います。
だけど、よけいなことばかり書いて肝心なことを書いていないかな、ではありますので、大海さんにそう言っていただけると嬉しいです。

このストーリィには前篇になるような部分がありますが、そうですねぇ。
ふたりともに恋愛よりも仕事のほうが大切、ってのが大きかったかもしれませんね。
女性は東京に帰りたくて、男性はプライドも邪魔してついていくわけにもいかず。
男性のほうが仕事を捨てて東京に行けば、なんとかなったのかな。
この男性ってのがヒデですので、ぜーったいに東京には行かないだろうな、ってわけで。

大人って、ほんとに恋って、思い通りにはならないものですね。
だからこそ「恋」はいろんなドラマの題材になるんでしょうね。
もっとうまく「恋」を書きたいと思います。

切ない感じです。

告白しようと思ったら振られる事になるとは!本当に切ないです。
「神戸は東京に比べて田舎」これには一理あるなって思います。
東京は数えるくらいしか行った事ないけど、神戸は友人がいたのでよく行ってました。
神戸は三宮や元町が栄えてるような印象で、後は山を無理やり切り崩して、町にしたような感じですからね。
地下鉄も半分くらいは外に出てるし、「何処が地下鉄じゃ?」ってつっこみたくなりますね(笑)。
北区あたりは田舎と言っても過言ではないですね。
でも僕はああいったのどかなところが好きですね。友人が学園都市に行ってたので、僕もあそこはいいなって思いました。

ちょうどいい時に訪問してくれて感謝します。
本日は球界に衝撃ですね。野球派のあかねさんにとってはショックだったかなって思います。
元野球選手清原が薬物所持で逮捕されました。清原は阪神にいた事はないですが、関西ですからね。
自分は以前から疑惑のあった人なのでやっぱりと思いましたけどね。
しかし薬物で逮捕される人が後がたたないですね。

明るい話題もありました。
サッカー界ではリオ五輪出場を決めるU23アジア選手権で日本が下馬評を覆し、リオ五輪出場並びにアジア制覇を成し遂げました。

この世代は下のカテゴリでの世界大会を経験してなく、予選敗退が濃厚と言われてましたが、初戦に勝って以降、次々と勝ち進み始めました。
鬼門の8強と言われたイラン戦に勝ち、この世代で勝てなかった4強イラク戦で劇的ゴールで五輪出場決定!
そして決勝での韓国戦では2点ビバインドから。後半に3点返して優勝しました。

この世代は何も成し遂げてない世代と揶揄されましたが、それを覆しての優勝は見事です。
国際大会で優勝するチームは総合力が高いです。
日本も10人の選手がゴールしたし、交代選手が当たってました。
2014年W杯で優勝したドイツもそういったチームでした。
暗い話題が飛び交う中で唯一明るい話題と言えるでしょうね。

NoTitle

http://quianquian.cocolog-nifty.com/blog/2016/02/c-3por2d2-ea0e.html

いつもコメント、ありがとうございます。
別のブログでスターウォーズ系のお遊びをやってみました。
ありがちではありますが、よろしかったら覗いてみてやって下さいね。

切ない……そう言っていただけるのも嬉しいです。
自分で読み返してみても、やっぱり切ないなぁ、なんて思いました。

東京と較べたら日本全国、どこでも田舎ですよぉ。
私は東京のひとに「田舎もの」と言われたことがありますが、まあ、東京人に言われる分にはしようがないかなと、苦笑。

清原さんも大阪人で、彼の親の家は知っています。
それだけに親しみは感じているのですが、覚醒剤ねぇ。
ひどい中毒になっていないのでしたら、そのうちまた復活するでしょう。

ああいう親分っぽいというか、強い男を演じたい、豪放磊落のふりをしたい男って、意外に弱いものらしいですよね。
いろんな報道を見ていると、私はそんな感想を強く持ちました。

野球がオリンピックから消えてしまって、そのほかのスポーツには興味ない私にはまったくつまらないのですけど、リオ、大丈夫ですかねぇ?
なにやら珍しい病気が流行っているとかで、中止になる可能性もあるんじゃないでしょうか。

そんなことになったら、今までがんばってきたアスリートたちががっかりですよね。
参加することに意義のあるオリンピックなのですから、アスリートたちのために、開催できるように祈っています。

あ、あと、先だってのお返事で、フォレストシンガーズがSMAPより年上、なんて書きましたが、逆です。フォレストシンガーズは時を止めていますので、SMAPよりは一世代ほど年下でした。

想馬涼生さんへ

わー、すみません。
上のお返事、宛名を書き忘れてしまいました。

想馬涼生さんへのコメ返事です。
よろしくお願いします。
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