連載小説1

「I'm just a rock'n roller」14

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「I'm just a rock'n roller」

14

 芸のためなら女房も泣かす……とかいう、破滅型芸人の歌がある。時代がちがうし、冬紀は芸人ではなくミュージシャンだ。冬紀には女房はいない。それでもやっぱり、大物になりたかったらこんな心意気でなくちゃ、と山根ももこは思うのだった。

「ももこさん、飲みにいきませんか」
「……いいわよ」

 去年、ももこのバックで演奏をしたのが評判がよかったようで、ジョーカーはこのライヴハウス、「ホーリーナイト」で定期的にライヴをするようになった。
 「ホーリーナイト」ではももこもよく仕事をしている。今夜も小さなライヴをすませて楽屋に戻ると、スタッフが告げた。友永くんが来てますよ、と言われて楽屋に通すと、冬紀が言ったのだった。

「いいけど、後腐れなんかないって言ってなかった?」
「飲みにいくのは後腐れですか」
「どっちでもいいわよね。じゃあ、先に行ってて。前にも行った「隠密」で待ってて」
「はい」

 ふたりともにたいして有名でもない身だが、三流写真週刊誌あたりだと、中年女性歌手と若いミュージシャンのスキャンダルを取り上げることもある。面倒なのでその名の通りの秘密で隠れられる店を指定した。
 服を着替えて化粧を直して、「隠密」という名の酒場へ出向く。「ホーリーナイト」からは徒歩で行けるこの店には、個室がいくつもあるのだった。

 個室に入っていくと、冬紀がつまらなそうな顔をして飲んでいた。ももこを認めて軽く頭を下げ、水割りを作ってくれる。ももこは冬紀の隣にかけて煙草に火をつけた。

「つまらないホストよりもいいわね」
「俺のほうがホストよりは安くつくでしょ」
「それもあるかな。冬紀くん、彼女たちは元気?」
「元気ですよ」

「今は何人?」
「つきあってほしいって言った相手はふたりです」
「んん? 新しい子?」
「わりと新しいかな。真澄とは一ヶ月、友里子とは二ヶ月ほどですね」
「……マメだねぇ」

 「ホーリーナイト」の楽屋にふたりそろってやってきて、冬紀を責めていた女の子の名前は、ナマとかたんぽぽとか……はっきりとは覚えていないが、マスミ、ユリコなんて名前ではなかったはずだ。

「前の子たちとは別れたの?」
「前の子って誰ですかね。たくさんいすぎて覚えてませんよ」

 うそぶく冬紀の顔に、ももこは煙草の煙を吹きかけた。

「ジョーカーは新曲のプロモーション中じゃなかったの? そんな暇、よくあるわね」
「ありますよ。俺は睡眠時間なんて短くていいんだし、寝てる暇があったら遊びたいし」
「今夜は彼女たちは?」
「真澄はクラブのDJをやってるんで、三時ごろまでは仕事です。友里子は劇団のメンバーで、九州へ公演にいってますよ」
「そういう女の子とどうやって知り合って仲良くなるの?」

 むろんジェラシーなどではない。純粋な好奇心だ。
 マメでない男はもてないと言う。仕事が忙しくても恋愛は別だとも言う。冬紀はそれを実践しているのだろう。ひとりずつの女に恋をしているとは思えないが、根っからのハンター気質なのか。女を口説き落とすのが趣味で、その気にさせたら飽きてしまうのか。

「俺は毎日忙しいわけでもないんだから、クラブに行ったり飲みにいったりしますよ。真澄がDJやってるクラブで、もうひとり、可愛い子と知り合ったんだ。その子は女子大生で、そっちも彼女にしたいって思ってる。三人ぐらいだったらどうにかなるしね」
「ほんと、マメだね。どの子ともデートできないときには私?」
「今夜は芳郎さんも飲みに連れていってくれなかったから」

 あるいは、友永冬紀はすさまじく寂しがりなのだろうか。若いってのもあるだろうけど、私にはもうそんなバイタリティはないわ。ももこはほっと吐息をついた。

「うまく伸びたら、キミはいいミュージシャンになれそうだけどね」
「うまく伸びなかったら?」
「そりゃあもう、ろくでなし」
「……言えてますね」

 ふふんと笑う冬紀の表情は、傲岸そうにも気弱そうにも見えた。

つづく







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~ Comment ~

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あかねさん、こんばんは。今日はちょっと欲張って
5話以上読ませていただきました。

優子ちゃんのことも気になりますが、けいこちゃんも気になるし。

冬紀くんは、そういう考え方なんだ・・・とふむふむ・・・勉強になりますね。
また続きを読ませていただきますね^^

美月さんへ

いつもありがとうございます。
冬紀の考え方、ねぇ……まあ、若いですからね。
若い男の子の思想はさまざまでしょうし、今どきの子には草食系なんてのもいるみたいですけど、一般的にこういうことに関しては……と思っているのは、私の偏見なのでしょうか。もてるミュージシャンなんてこんなものですよね。

このストーリィは長~く続く予定ですので、長い目で見守ってやって下さいね。
って、続編も書かなくては。

楽しみにしてます

おぉ~そうなんですね!続くのは嬉しいです。
小説の中で時の流れを感じられるのは
とても素敵な事ですね。みんな変わって
いくのかなあ…。

美月さんへ

今のところはこの第二話までしか書けていないのです。続編はちょっとだけ書きかけて、なんとなくは展開も見えているようないないような……で、書かなくちゃいけませんね。

そもそもはかなりの昔に書いていたものでして、いちばん最初のストーリィはたしか、ジョーカーが売れて彼らのストーリィを出すことになり、ゴーストライターの女性を頼み……といったものでした。
でも、そこは方向転換するつもりですので、どうしようかなぁ。
気持ちがジョーカーに向いたら、また書きますね。
楽しみにしてます、って言っていただけると嬉しいです。ありがとうございます。
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