連載小説1

「I'm just a rock'n roller」13

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「I'm just a rock'n roller」

13

 はじめてのラジオ出演はとりあえずは無事に終わり、耕平は我が家に帰った。
 ボクサーになりたかったり、ロックバンドをやったり、不良少年の時期を経て就職して結婚してから二年になる。扶美は耕平よりも二歳年上で、耕平も以前は働いていた工務店での事務員を続けていた。

「ジョーカーが売れたら扶美ちゃんは専業主婦になる?」
「うーん、専業主婦は性に合わないんじゃないかな」
「子ども、ほしいんだろ」
「そうだね。妊娠したら仕事はやめて、子どもが大きくなったら耕平くんのマネージャーとか、どう?」
「マネージャーってどんな仕事をするんだろ」

 現在の扶美は妊娠はしていないので、仕事を持つ主婦だ。ジョーカーにはマネージャーはいるのだが、売れていないので事務所も熱心にバックアップはしてくれない。だが、マネージャーを見ていると扶美には勤まらないと思えるので、俺がスターになったら扶美ちゃんには専業主婦になってほしいなぁ、と耕平は思っていた。

「ただいま」
「お帰り。ラジオ、聴いたよ。なんだかくすぐったかった」
「扶美ちゃんの話もしたもんな」

 名前だけは知っていた「ジュークボックス」の大谷ヒロミがDJをつとめるラジオ番組で、耕平は自己紹介をしていた。結婚してるってちゃんと言ってよね、内緒なんて駄目だよ、と扶美に言われていたのだから、妻の頼みには従った。

「そっか、赤石くんには奥さんがいるんだ」
「いるよ」
「この番組を聴いてて、がっかりしてるファンの女の子もいそうだね」

 大谷に言われて、耕平としてもくすぐったかったものだ。
 無名のロックバンドなのだから、芸能人の仲間入りをしたとも思えないが、やはり耕平の生活は激変した。収入はまるで増えてもいなくて、扶美が働いていないととてもやってはいけない。ブルーカラーだったころよりも支出のほうが多くなったから、耕平としては後ろめたい。

 けれど、扶美は楽しげに耕平に協力してくれている。夕方のラジオ番組について、あそこはどうだったの? 大谷ヒロミってかっこいいよね、あたしも会ってみたいな、と言いながら、扶美は台所に立った。

「おなか、すいてる?」
「お茶漬けだったら食いたいな」
「あたしが夜に食べた塩鮭の残りでいい?」
「鮭茶漬けか、いいなぁ」

 手早く作ってくれたお茶漬けと漬物で、庶民そのものの夜食を食べる。扶美も耕平のむかいにすわってお茶を飲んでいた。

「大谷くんももてるんだろうな」
「もてるみたいだよ。ミュージシャンはもてるもんな」
「耕平くんももててる?」
「これからもてるのかもしれないけど、俺には扶美ちゃんがいるんだから、ラジオでだって言ってあるんだから、ファンの女の子だって変な気は起こさないよ」
「起こされたらどうする?」
「断るよ」

 満足そうに笑って、扶美は言った。

「友永くんももてるんだろうな。武井くんや松下くんって有名でもない今はもてそうにも思えないけど、友永くんだったらニートだとしてももてそう。彼、女遊びばっかりしてない?」
「してないよ」

 ここで友永の女性関係についてつぶさに話したりしたら、扶美は柳眉をさかだてるのではないだろうか。同性としては、俺も友永ぐらいもててみたいな、俺が独身だったら友永みたいに行動するかもな、うらやましいな、ではあるのだが。

 何人もの女性を手玉に取っているのか、ことによったら取られているのかもしれないが、二十二歳の独身ミュージシャンなんてそんなものだろう。冬紀は言っていた。

「できちゃったんでもないのになんでそんなに早まって結婚したんだ? もったいない」
「愛していたからだよ」
「ふーーん」

 本当にジョーカーが売れてきて、女の子にきゃあきゃあ騒がれるようになってきたら、耕平も冬紀のように考えるようになるのだろうか。
 ふっとそんなことも考えてしまうので、扶美には正直に言えない。第一、ジョーカーがスターになるなんて、夢のような話すぎるではないか。

つづく





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