ショートストーリィ(雪の降る森)

フォレストシンガーズ「小説・雪の降る森・銀河鉄道編」

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FS銀河鉄道」とコラボしてみました。



小説「雪の降る森・銀河鉄道編」


 ひたすらに膨張を続けていっているという宇宙と、インターネットの世界は似ている。姉に導かれてネットの世界に足を踏み入れ、おっかなびっくり進んでいって、姉が作ってくれた自分のサイトも運営するようになっている雪瀬には、知らないことが多すぎた。

 そもそも雪瀬がサイトをはじめたのは、フォレストシンガーズファンだからだった。姉がブログの基本的な部分を作ってくれ、雪瀬が書いた小説や短文を載せる。姉は専門家であるので、音楽やCGの部分も充実させてくれた。

 それだけでも満足はしていたのだが、こんなのもあるよ、ほら、こんなのも、と言って姉が他人のサイトを見せてくれる。
 フォレストシンガーズのファンって私だけじゃないよね。当たり前なんだろうけど、私と同じような活動をしているファンも多々いる。このサイトは私の「雪の降る森」よりもよくできている。かっこいい。素敵。こんなの見たくないな。

 見たくないとは思っても、対抗心や好奇心もあって見てしまう。あの夜もフォレストシンガーズのファンサイトめぐりをしてから、フォレストシンガーズ公式サイトに行ってみた。

 あの夜、事前登録したフォレストシンガーズのプロジェクトがはじまっている。当初の予定だった9000人登録は悠々クリアしたと知って、ほんとにそんなにファンがいるんだなと、雪瀬としては嬉しいようながっかりなような気分だった。

「雪ちゃん、いらっしゃい、今日も元気?」
「元気だよ。ミルクも元気?」
「うん、元気。ありがとう」
「ミルク、猫のアキはいないの?」
「アキ……そんなのいたっけ?」

 銀色のふわっとした毛皮を着た猫は、このサイトの案内係、ミルクだ。ミルキーウェイにちなんだ名前らしく、人気アニメで少年役をやっている声優が声を当てている。オスの仔猫なのだから、少年声はミルクにぴったりだった。

 サイトに遊びにくるファンはアバターを設定できる。かなり詳細な設定ができるのも、女性には嬉しいことのひとつだ。
 トランジスタグラマーという耳慣れぬ体型があったのでそれを選んでみたら、華奢で背は低めのボディにバストとヒップはふっくらだった。ダークブラウンの髪をツインテールにして、服装も自由に変えられる。

 今夜は清楚な白い襟のついた紺のワンピースを着ている雪瀬は、ほっと吐息をついてからミルクに言った。

「いないよね。しようがないね」
「うん、雪ちゃん、今日はどこに行く?」
「どこにしようかな」

 アキとは「雪の降る森」の小説キャラなのだから、いなくて当然だ。

 「雪の降る森」にも夢小説があったり、フォレストシンガーズの歌が聴けたり、アニメキャラが喋ったり走ったり、とバリエーション豊かなのだが、この「FS銀河鉄道」サイトにはかなわない。ファンの望みをなんでもかなえてあげたいとの意図で企画されたバーチャル空間には、専門家が大勢関わっているのだろう。

 姉にならばからくりもわかるのだろうが、雪瀬にはなにがどうなってこうなるのかは不明だ。なにもわからなくても楽しくて、ここに来れば時間を忘れられた。

「やあ、雪ちゃん、ようこそ」
「あ、シゲさん、シゲさんには用事はないの。出てこなくていいよ」
「ああ、そう。それはどうも失礼」

 会いたいと願えば他のファンたちにも会えるようだが、雪瀬は自分の同類には興味はない。ファンたちはアバターで、サイトの主要人物たちはアニメキャラ。アニメキャラが出てくるとどきっとするのだが、雪瀬としては会いたくもない人物が出てきた。

 表情までが豊かなアニメキャラの本庄繁之は、苦笑して消えてしまった。このサイトにいると不意にメンバーがあらわれて挨拶してくれるらしいと聞いていた。雪瀬はプロジェクト始動以来毎晩訪問しているのだが、メンバーと会えたのは初だった。

「なんでシゲさんなの。つまんないよ」
「雪ちゃんったら、そんなことを言わないで」
「だって、つまんないよ。あ、わかった。シゲさんって人気ないでしょ。だから暇なんだ。誰もシゲさんに会いたいって思わないから暇で、手持無沙汰なんだよね。それで出てきたんだ」
「誰も会いたいと思わなくもないよ。シゲさんだって人気はあるよ、それなりに」
「それなりに、だよね」

 困った顔、猫のくせしてミルクも表情豊かだ。シゲさんをかばおうとしているミルクがおかしいやら可愛いやらもあって、雪瀬はなおも言った。

「シゲさんだけは子持ちだし、かっこよくないし、おじさんっぽいし、人気ないのもわかるな。前にフォレストシンガーズのひとりひとりのソロライヴがあったじゃない? あのときだって、シゲさんのソロはがっらがっらだったんでしょ。採算取れなかったとか聞いたよ」
「そんなことはないよ。雪ちゃんはシゲさんが嫌いなの?」
「嫌い」

 だって、はじめてフォレストシンガーズの誰かに会えたと思ったら、シゲさんだったんだもの。がっかりなんだもの。八つ当たり気味にそう思って、雪瀬は銀河鉄道の操縦席へとワープした。

 目指すははるかな大星雲。期間限定プロジェクトなので、フィナーレはあの星雲でのコンサートだ。漆黒の大宇宙にきらめく星々に見とれていると、肩にそっと手が置かれた。バーチャルでそんな感触? え? と振り向こうとしたら、耳元に息がかかった。

「ユキ、おまえはお行儀がよくないね。俺の仲間にあんな態度を取るなんて、めっだよ」
「……あ、乾さん」
「シゲを連れてくるから、ごめんなさいするか?」
「しないもん。シゲさんなんかいらないから、本橋さんを連れてきて」
「シゲにあやまらないんだったら連れてきてやらない」
「あーん、意地悪ぅ」

 本庄があらわれたときには、なんだ、つまんない、としか思えなかったのに、今度は本気で胸がときめきはじめていた。
 すらりと細身で背の高い乾隆也の、肩までしか雪瀬の頭は届いていない。実際に向き合ってもこのくらいの身長差があるだろうか。本庄がなにを着ていたのかは覚えてもいないが、乾は銀河列車のクルーなのか、銀色のスペーススーツが素晴らしくサマになっていた。

「本橋さんにも会いたいよぉ」
「ああ、そうそう、本橋はバスルームにいたよ。三人で風呂に入るんだったら連れていってやろうか」
「……もうっ、意地悪っ!!」
「俺は意地悪だよ。おまえは知ってるだろ。ユキは言ったじゃないか、意地悪な乾さんが好き、って。俺は本橋なんかいないほうがいいな。おまえを独り占めできるんだもの」

 雪瀬は自分のサイトでは自分の趣味のみに走った小説を書いている。「ユキ」の名前をそれを読んでくれている人の名前に変換できるようになっているのだから、そうして楽しんでくれている読者もいるらしい。アクセスはけっこうあると姉が言っていた。

 その小説のシチュエイションと似ている。三人で風呂に入ろうか、と雪瀬を誘う乾隆也、アバターなのに頬が熱くなって、真っ赤になっている雪瀬を見て笑う隆也。意地悪な乾さんが好き、とは自作の小説の中での雪瀬のセリフだ。

 ミルクは消えてしまって、隆也と雪瀬がふたりっきり。
 これはいったいどこからどこまでが本当のこと? 本当とはいってもバーチャルだから、すべてが本当のはずはないけれど。

 もしかしたら……ううん、きっと、この瞬間にこんなファンタジックな経験をしているファンは他にもいるはず。だけど、見えないんだからいいの。ここにいる乾さんは私だけの彼氏。雪瀬は幻想の中に浸り込んで、抱きしめてくれる隆也の腕に身を任せる。アバターなのに、バーチャルなのに、くちびるとくちびるが重なる感触がまちがいなくあった。

 ファーストキスが乾さんとだなんて、ユキ、幸せ。

END





蛇足:雪瀬の将来がいささか心配な著者です(笑)







 
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~ Comment ~

あの続きですね

うーーん相変わらず、なかなか電波系な雪ちゃんですね^^;
このまま大人になるんだろうなあ。
雪ちゃんの妄想力が、バーチャルの世界に引き込んでいってしまったのか・・・。
それにしても、シゲちゃん、かわいそうに。
何もしてないのに、嫌いとか言われるし(笑)
怒っていいよ、シゲちゃん。

でもこんなふうに、どっぷりバーチャルにはまって遊べたら楽しいでしょうね。
ほとんどゲームをしない私ですが、むかしどう森にちょっとハマりました。
あの感覚って、そうなのかなあ。
いやしかし、シゲちゃん可愛そう(笑)

limeさんへ

そうです、あの続きとあの続きがコラボしています。
雪瀬はこのまんま、電波系女性になるんでしょうか。
一般のファンから見れば芸能人なんて二次元キャラと同じで、そういう相手に恋をしていれば平和でいいともいえますけどね。

私はゲームといえば、昔はRPGをよくやっていました。
ファイナルファンタジーが好きでしたね。
「どうぶつの森」? ですよね。あれもやりたかったのですが、たしかニンテンドーのソフトでしょ? ハードを持ってないのでやれませんでした。

最近はオチモノ系だとか、パズル系だとかを無料サイトで見つけてやっている程度です。

あ、そうそう、limeさんがアップしておられた、あのイラストのタカビー美青年。ホストなんですか?
あの絵からイメージしたストーリィ、書いてもいいですか?
書けるかどうかはわかりませんが、ご了承いただけたら考えてみます。
いつでもどこでもネタを探していますので、書かせてもらえたら嬉しいです。いつもお世話になっております。

NoTitle

あ、どうぞどうぞ、あのタカビーホストくんの話、書いてやってください。
もうちょっとマシな写真を今度撮って、あのページのところに貼っておきますので、それを挿絵に使っていただいてもかまいません。(色は、塗る時間がないかもしれませんが・・・・^^;)

続いている~

そっと物語が続いているんだなぁ。
そして、このバーチャル世界に遊ぶ彼女、ものすごく嵌って、楽しそうですよね。これだけ嵌れたら、ほんと、このミルキーウェイの製作者も本望だよね。
それにしてもシゲちゃん可哀そう……
そこまで言っちゃうか……バーチャルな世界なのに……バーチャルな世界だからか……自分の思うままに生きられる世界。ちょっと寂しい気もするけれど、でもその中で別の自分が生きている……

意地悪な乾さんが好き。あはは。そこは共感する。

limeさんへ

ご了解いただきましてありがとうございます。
早速イラストをいただいてきまして、考えていました。
あのまんまで写真という感じがしますので、そのセンかな。
ただ、私が考えている設定だとかなりどろーっとしてるんですよね。
それでもいいかな、どうしようかな、と躊躇しています。

完成してアップできそうになったあかつきにはお知らせしますので、よろしくお願いします。
書けるかなあ。書けたらいいなぁ。

大海彩洋さんへ

はーい、続いてます。
ありがとうございます。
続編を書くのが好きなのですよ。大海さんもわりと、ひとつの物語を続けていくのがお好きなのではありませんか?

この雪瀬って女の子のサイトにある妄想小説という題材で「雪の降る森」を書いていましたら、limeさんとけいさんがご感想を下さいまして、お風呂場の大乱闘だとか、この化け物の正体は? などのネタも下さいまして。
おかげさまで長々と続き、銀河列車ともコラボしてしまった次第です。

バーチャル世界って惑溺してしまうと怖い気もしますけど、ほどほどだったら楽しいですよね。

大海さんもlimeさんもシゲに同情して下さって、本人になりかわって感謝します。
「意地悪な乾さんが好き」そうですか~もっと意地悪な乾くんにしようかな~(^^♪

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鍵コメlさんへ

うわー、ごめんなさい。
YAHOOのアドレスですよね?
あれ、六か月使ってなかったら使用できなくなってしまうそうで、停止になってました。
知らなかった。
せっかく送って下さったのにすみません。

でも、lさんのサイトにアップされていたままで使わせてもらいます。
これからじーっくり考えますので、書けたらお知らせしますね。
ほんとにすみません、そして、ありがとうございました。
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