ショートストーリィ(しりとり小説)

69「夏の星座」

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:BLです。「もどき」かもしれません。

しりとり小説69

「夏の星座」

 生まれて育って出奔して、捨てたつもりの故郷の夏は、僕の身体にそれでもしみついている。
 瀬戸内名物「夏の夕凪」。僕が高校を中退して東京に行くまでの夏には、毎年毎年経験して辟易していたものだった。

「暑いな。汗をかくと引かないじゃないか」
「ケイさんは九州育ちだろ。九州だって暑いんじゃないの?」
「俺の故郷はもうすこしからっとしてるかな」
「気候が性格にも反映してるね。もっとも、僕の故郷の人間が誰でも僕みたいにウェットなわけじゃないけどさ」
「おまえはウェットか?」
「湿っぽいよ、僕は」

 島中のましな女は制覇して、だけど、僕は女よりも男のほうが好きだと認識するようになって、この性癖では田舎では暮らしにくかろうというのもあり、ギタリストになりたいのもあって島を出た。東京で暮らしている遠縁の春子さんを頼り、春子さんに世話になって東京暮らしをはじめた十六歳のころ。
 春子さんの知り合いの編曲家のケイさんにさらわれていって、僕は彼のものになった。

 ギタリストにはなれなくて、僕はケイさんの寄生虫のような、主婦のようなものだ。ともに暮らし、中年オヤジのケイさんの主義できびしく躾けられてきた。もちろんえっち方面も。
 こんな僕は今は幸せさ。悪さをするとケイさんにひっぱたかれるから、シンナーだってやめたし、浮気もほどほどにしている。ケイさんは二十歳になった僕をまだそばに置いてくれているけれど、少年趣味なのだから、いつ捨てられるか。

 ずるいんだよね、ケイさんは。
 あんたは大人だから、すでに中年なんだから、この先しばらくは中年でいるだろ。僕のようには変わっていかない。中身も確立してるから、どっしりとした編曲家の田野倉ケイとして、平素は大人の田野倉敬三として自信を持って生きている。

 自信がなかったら僕みたいな年下の男を躾けられやしないだろ? なのだから、少なくとも僕にはそう見える。もっとも、ケイさんの躾って勝手だけどね。
 だけど僕は日々、変わっていく。ケイさんに捨てられるのが先か、僕がケイさんに飽きるのが先か。そんな日は先延ばしにしたくて、日常に刺激がほしくて僕は浮気をしたり、ケイさんにこっぴどく叱られるようなことをしたりするんだって、知ってる?

 暮れなずむ浜辺にふたり、つかず離れず寄り添って、僕は無言でケイさんの横顔に語りかける。
 故郷にいるのだから、ケイさんといちゃいちゃできないのは不満。この島の純朴な大人にはゲイのカップルなんてものは想像外だろうけど、腐女子はいるかもしれないし、ケイさんは人前ではいちゃついてくれないから、僕もおとなしくしているしかないのだが。

「ねぇ、ケイさんの宿に帰って一緒にお風呂に入ろうよ」
「男同士で一緒に風呂に入っても、宿の人間はなんとも思わないだろうけどな」
「そしたらいいでしょ?」
「風呂くらいはひとりでのんびり入らせろ」
「いやだぁ。ケイさんと一緒に入って、全身綺麗に洗ってほしいよぉ」
「ガキじゃないんだから、自分で洗え」

 東京のマンションでだって、僕が酔って帰ったりすると手荒に裸にして、背中だの尻だのをひっぱたきながらシャワーを浴びせる。そういうことはするけれど、優しく洗ってくれるなんてまずない。

「旅行は非日常なんだから、いつもはしないことをしようよ」
「ここはおまえの故郷だし、非日常って感じでもないな」
「そしたらよそに行く?」
「日常の延長ではあるけど、ここはいいところだよ」

 好きでもない故郷ではあるが、見事な夕焼けをケイさんに見せてあげたかった。
 両親の住む家は狭いから、東京でお世話になってるひとを連れてきたよ、とだけ紹介して、ケイさんは旅館に泊まっている。僕としては不満だが、田舎が不自由なのは知っているから我慢するしかない。

「つまんねぇの。じゃあさ、あの海に身を投げよう、無理心中しようよ。イテッ!!」
「つまらないのはおまえの台詞だ。黙れ」
 頭を殴られて怒られて口をとがらせていると、ケイさんが空を見上げて言った。

「ここでだらだらしていたら暗くなってきたな。哲司、おまえは夏の星座は知ってるか?」
「ケイさんらしくもなくロマンティックなことを……あ、あれ、ケイさんと僕だ」

 帰ると別々になってしまうから、僕は真夜中までだってここにいたい。ケイさんが帰ろうと言わないのもそのせい? まさかね。ケイさんは早く宿に帰って、酒を飲んで寝たいだろうに。

「どれだ? さそり座といて座か」
「わかってんじゃん」

 イメージとしては邪悪な蠍が僕。いて座というのは射手だからケイさん。
 蠍が射手の足元を狙っている。あるいは、射手が蠍を射ようと狙っている。僕は射られるほうがいいな。そんな気分で、ほんのちょっとだけケイさんににじり寄った。

 
次は「ざ」です。

「主人公について」

蛇足ながら、小さなストーリィの各主人公について補記しておきます。
フォレストシンガーズストーリィの脇役、真行寺哲司。彼はけっこう本編にも出てきますので、興味を持って下さった方は、小説268「While My Guitar Gently Weeps」などを読んでやって下さいませ。  
なお、このストーリィはとあるSNSのお題小説として書かせてもらったものです。ちょうど「な」でしたので、こちらにもアップしました。








                                           
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~ Comment ~

瀬戸内名物、わかります!

あかねさま

ちょっとご無沙汰になってしまってすみません。
連載小説の続きを読ませていただこうとして・・・・寄らせてもらいながら、
パソコンを横から取られてしまい・・・スマホは不便で、なかなかコメントも出来ずでした。

今回はトップページに来させてもらいました♪BLという言葉にひかれて・・・。
なんかいいお話でした。哲司くん、想われてますよね^^
また連載小説、お邪魔しますね。

寒くなってきました。お互いに風邪をひかないようにしましょう^^

あかねさんへ!!

猫がお好きだったのですね^^。
今日のあかねさんのコメント見て私は、つい涙ぐみました。
猫を飼っていない人にはわからない深い愛情を感じました。!!

生き物を粗末にする人は人間愛に欠けるといっても過言ではないと思います。

捨てる人いれば、拾う人がいるからよいですが若し保護してくれる人がいませんと動物は死んでしまいます。
深く考えてほしい問題だと思いますねー。!感謝でした。!

美月さんへ

私はまだガラケーを使ってまして、スマホにする予定もないのですが(通信費がかかる分、スマホは高くつくでしょ?)、やっぱりパソコンのほうがコメントなんかはしやすいのですか?
余裕のあるときにしていただければ嬉しいですので、ご無理はなさらないでくださいね。

そういえば美月さんは、「瀬戸の夕凪」は体感しておられるのですよね。
プロ野球を見ていて、広島でやっているとよく「瀬戸の夕凪」という言葉を聞きます。岡山あたりもそんな感じで、大阪よりも蒸し暑いとかいいますよね。
暑いのは大嫌いな私は、北の国に移住したいです。

ケイさんは照れ屋ですから、実はけっこう哲司を愛してるんだと思います。
ケイ&テツシはフォレストシンガーズのBL担当ですので、また読んでやって下さいね。

大阪はまだそんなに寒くもなく、昼間に外を歩いていると汗をかきますが、朝晩の寒暖差は激しいですから、お互い、体調には気をつけましょうね。

荒野高虎さんへ

我が家にも去年の夏まではもう一匹猫がいました。
二十歳で逝ってしまって、今は荒野さんのサイトに書かせてもらった、感染症だったのを拾った猫だけです。
動画の三毛猫ちゃん、我が家でもらいたかったなぁ。
もう一匹ほしくてたまらないのですが、家族に反対されていますのでなかなか。

あのニコちゃんは、うちのくぅとまったく同じ境遇で拾われた子でしたので、他人じゃないように思えてしまいました。

猫と暮らしたい方には、ペットショップなんかで買わないで、捨てられた仔をもらってやって下さい、と言いたいですね。

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