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フォレストシンガーズ十月ストーリィ「ダンスパーティ」

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フォレストシンガーズの十月ストーリィ

「ダンスパーティ」

 
 昭和のダンスフロアみたいにしようと提案したのは私。みんなも賛成してくれて、男女混合の臨時バンドを組み、何時間もかけて選曲をした。

「琴子はフォレストシンガーズのファンっていうだけあって、趣味も古いんだよね」
「名前も古い感じだもんね。だけど、新鮮でよくない?」
「いいかもね」

 学園祭当日、軽音楽部の部室はダンスフロアに変身していた。
 シャンデリアとミラーボール、踊れるスペースを広く取り、ステージは前のほう。1960年代のアメリカハイスクールのダンスパーティ会場みたいになって、私としても満足だった。

 スローワルツ、コンチネンタルタンゴ、スローフォックストロット、クイックステップ、ウィンナワルツなどの社交ダンス曲を演奏するバンドは、最終音合わせに余念がない。お年を召した教授のカップルが、ドレスとスーツ姿で会場に入ってくる。大学生も大人も集まって、ホールは熱っぽい雰囲気になっていた。

 昔の映画で見た通りに、カップルになってもらってカップルチケットを買ってもらったから、入ってくる人々はみんなペアだ。私の友人たちもレトロなおしゃれをしてカップルで来てくれた。

「琴子がプロデュースをしたんだよね。いい感じ」
「楽しんでいってね」

 同じ学部の女友達が、彼氏とふたりで手を振ってフロアに出ていく。音楽も1960年代ふうで、私が聴くととってもとってもスローテンポだ。年配の方にだったらいいだろうが、若い男女にはどうだろう? ちょっと心配になって会場の隅に立っていたが、若い世代の男の子や女の子も楽しんでくれているようだった。

 裏方の私たちはけっこう仕事が忙しい。この出し物を提案したのは私だから総プロデューサーみたいな立場になって、あっちに行ったりこっちに行ったり、走り回っていた。

「ミキシングなんて私にはわかんないよ。高木さんだったら詳しいんじゃない? 誰か、高木さんを呼んできて。山本教授でもいいよ。ああ、院生の真梨子さんも音楽に詳しいんだった。誰でもいいから呼んできて」

「リクエストをもらった? なんていう曲? 誰も弾けないの? そしたら断るしかないんじゃないかな。リクエストお断りってパネルを立てる? そんなの急に言われても……でも、リクエストを受ける余裕なんかないんだよね。パネル立てようか」

「酔っ払ったおじいさんが入ってきた? アルコールは学園祭では禁止だよ。それでも入ってきちゃって、誰か踊ってくれって? それってセクハラじゃないのよ。はいはい、私がお断りしてきます」

 そんなふうに続々と小さなトラブルが発生して、すわっている暇もない。バンドがいい演奏をしているのか、聴いている暇もない。そのうちには喉がからからになって疲れ果ててきたので、飲み物を買ってこようと外に出た。

 いつの間にか夕方になってきていて、学園祭の宴はたけなわだ。同じ大学の学生たち、彼らや彼女らの友人たち、卒業生たち、院生や助手や教授や事務局の職員も歩いている。学生の兄弟や両親も遊びにきている。
 美術部や華道部の展示物、大道芸みたいなパフォーマンスをやっているのは演劇部の有志、奇術を披露しているサークルもあり、学術的な分科会の看板も立っている。

 楽しげに笑いさざめく人々の中を歩いて、幼児教育学科が出している冷菓の店でスムージーを買った。私だってちょっとぐらい寄り道したっていいよね。あと半年で卒業するんだから、最後の学園祭に働いてばっかりなんてつまらない。合唱部のコンサートを聴きにいこうかな。

 そんな気分になって体育館のほうに行こうとしていたら、驚くほどに静かな場所に出た。うちの学校のキャンパスにこんなところがあった? 人々のざわめきもサークルの模擬店の呼び声も、音楽もなんにも聞こえない。木立ちの中に吸い込まれるように入っていった。

「やっぱり疲れちゃってたんだ。ああ、ほっとするわ」
 乾いた葉っぱが積もった地面にすわると、甘い歌声が聴こえてきた。

「For your love
 When I think about those nights in montreal
 I get the sweetest thoughts of you and me
 Memories of love above the city lights
 Ooh, I tried so hard to take it
 But oh lord my heart wont make it

 I just wanna stop
 And tell you what I feel about you babe
 I just wanna stop
 I never wanna live without you babe
 I just gotta stop
 For your love」

 どこかの部室や学部で流している音楽ではない。なつかしい気になる男性のソロだ。この声は……? きょろきょろしていると、木立ちの奥からすらっとした男性が出てきて私の隣にすわった。

「I just wanna stop
 And tell you what I feel about you babe
 I just wanna stop
 The world aint right without you babe
 I just wanna stop
 For your love」

 低めの声で優しく歌う声にとろけてしまいそう。私は身動きもできなくなって、隣にすわった男性の歌を聴いていた。あなたは? まさか……フォレストシンガーズの乾さんは私の大学の先輩だけど、こんなところにいるわけがない。先輩が学園祭に来るのは不思議ではないかもしれないけれど、有名人がうろうろ歩いているはずがない。

「ジノ・ヴァネリ、 I Just Wanna Stop。俺のキーよりは低めに歌ってみました。あなたは若いから知らないかな」
「いえ、なんとなくは知ってますが……」
「ダンスパーティの部屋で獅子奮迅していたひとだよね。あなたの奮闘でいいパーティになっていた。俺は軽音サークルとは関わりはないんだけど、音楽的な催しには肩入れしたくなるんだ。ありがとう」
「そんな……」

 本物? 似ているだけの男性? 問い質しもできずにいる私に、そのひとはにっこりしてくれた。
 もう一度、ありがとう、と囁いて、立ち上がって行ってしまったそのひと。本物じゃないのかもしれないけど、本当の乾さんだと信じておいたって罪でも害でもないはずだ。最後の学園祭の夜に乾さんに会ったとは誰にも告げずに、ひとりで思い出してにんまりすればいいのだから。

「よし、元気が出た。もうひとがんばりしよっと」

 忘れていたスムージーを飲み干して、早足で歩き出した。合唱部のコンサートよりも、合唱部出身の乾さんのソロを聴けたほうがずーっとよかった。


END




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~ Comment ~

NoTitle

罪でも罰でもありませーん!!
羨ましすぎるぅぅぅぅー!
私もその場に是非!いや、独り占めしたいですぅぅぅっ!
興奮して鼻血がでそうです。。
年明け早々いかんです。

いつもコメントありがとうざいます!
あかねさんからのコメントだけが心の支えでございます(><
猫のことも語れるなんてしあわせでございます。
どうぞ今年もよろしくお願いします!

ハルさんへ

あけましておめでとうございます。
ショートストーリィも読んでいただきまして、ありがとうございます。
自分で書いておいてなんですけど、私もこのシチュエーションに置かれたら心臓がどきどきして、いい歳をしてまともに喋れなくなりそうです。

私のほうこそ、いつも楽しいコメントをありがとうございます。
小説に関することばかりではなくて、猫カフェに行ったよ、というお話やら、好きな異性のタイプやらという話題も嬉しいです。
またどんどん書いて下さいね。

ハルさんの繊細な小説もいつも楽しみにしています。
今年もなにとぞよろしくお願いします。
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