ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS秋物語「千々にものこそ」

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フォレストシンガーズ

「千々にものこそ」

 
 定例句会をやろうか、などと言い出したのは乾さんで、うげぇ、いやだ、やめろ、勘弁して下さいっ!! などの悲鳴が飛びかった。

 我々のプロモも毎回工夫をこらし、アニメにしたりドラマ仕立てにしたりしている。その中にはみんなで俳句を詠んでいるものもあった。
 あのとき、俺はまだ新婚さんだったか。本当に自ら俳句を詠まなくてはいけなくなって、そのためのノートを作り、恭子にも相談して苦吟していた。

「俳句は「詠む」でいいんですよね?」
「ひねるとも言うけど、詠むでもまちがってないよ」

 ひねるだなどと簡単に言うのは乾さんだけだ。俺はひねってもねじっても出てこなくてひたすら苦悩、苦吟だった。
 
「あのプロモ、好評だったみたいじゃないか」
「俺たちが和装だったからもあるみたいですね」
「そうそう、特に乾さんはさまになっててかっこいいって、ファンのみなさまの間でプレミアがついてるとか?」

 プレミアは幸生得意の誇張ってやつだろうが、うちにはむろんあるそのDVDを見ると、乾さんはほんとにかっこいいと思う。恭子もあのDVDを見るたびに、乾さんだけは格がちがうよね、と言うので、俺としては妬けるのであるが。

「だからさ、月に一度句会をやって、慣れておくんだよ。俳句ではなくて短歌でも可としよう」
「短歌なんてもっと無理ですよ」
「俺にはみそひと文字って短すぎるんだよぉ」

 章と幸生は文句を言い、本橋さんはむずかしい表情になり、乾さんだけが涼しい顔をしていた。
 大学では万葉集の研究をしていた乾さんなのだから、得意なのは当たり前だ。シゲだって日本史を勉強していたんだろ、と言われるが、それとこれとはちがう。恭子はスポーツウーマンで文系には疎いから、我が家は夫婦そろって不調法なのだ。

「まあ、ためしにやってみよう。使えるかもしれないから、カメラを回してもらおうぜ」
「カメラ……回すのか」
「その前にリハーサル? 秋は句や歌を詠むには最適の季節なんだ。来月からはじめるからよろしく」
「乾さーん、俺はポエムでもいいでしょ」
「駄目だ。俳句か短歌に限る」

 てめえは得意だからってさ、と本橋さんはぼやき、幸生は、俺は長い詩がいい、と泣き真似をし、章は章で、俺は乾さんの自信作に曲をつけますよ、と皮肉っぽく言う。乾さんは全員を鼻であしらって、じゃ、決定、と言い置いて帰っていった。

 作曲や長い詞を書くことだったらできる他の三人とちがって、俺には代替え案も出せない。文句は言っても負けず嫌いの三人は、よーし、やってやろうじゃん、と気持ちを切り替えていたようだった。

「句会ねぇ。短歌でもいいんだね」
「うん、それまでに俳句を詠まなくちゃ。俺はちょっとでも短いほうがいいよ」
「これは……」

 帰宅して妻に話すと、恭子は引き出しから箱を出してきた。

「子どものための教材に入ってたの」
「子ども向けの百人一首? こんなのあるんだな」
「CDもついてるから、音楽みたいにして耳から覚えるんだって」
「……百人一首って短歌だろ。なんとなくだったらいくつかは知ってるけどさ」
「聴いてみようか?」

 もとテニス選手の恭子には、ぼちぼち仕事の依頼が来ている。長男の広大は早めに幼稚園に入れ、ベビーシッターさんに迎えにいってもらおうか、との相談もしているので、遊びのような勉強のようなトレーニングもしている。

 そのために届けてもらっている、幼児用教材のひとつだ。百人一首なんて、俺は高校生になってから触れたんだったかな、古典って苦手だったなぁ、と思いながら、CDを聴いた。

「月みれば 千々に物こそ 悲しけれ 
     我が身ひとつの 秋にはあらねど」

 ああ、これだったら知ってる。季節感ぴったりだな、と思っていると、冊子を読んでいた恭子が言った。
「このひと、歌手じゃないの?」
「大江千里……いたよな、ったって、時代がちがいすぎるだろ」
「同姓同名?」

 こんなときには乾さんだ。メールをすると間もなく返信があった。

「早速勉強してるのか。シゲは素直でいいね。
 その大江千里は、シンガーの「おおえ・せんり」さんとは当然、別人だ。
 そっちは「おおえのちさと」と読む。シンガーの大江さんは意識しているんだろうな」

「月を見るとあれこれさまざまに、ものみなすべて悲しく感じられることよ
  わたくし一人だけのために来る秋ではないのだけれど」

 そんな解説もあって、恭子がベランダに出ていくのについていった。
 息子たちは寝てしまった静かな夜。秋の月が大きく見える。ひとりぼっちであの月を眺めていたら、千々に想い乱れて悲しかったかもしれない。

 高校生までは親元にいたから、寂しいとはあまり思わなかった。俺はおくてだったようで、男友達に彼女ができたという話を聞いてうらやましくは思っても、俺には遠い出来事のように感じていた。
 あからさまに男の欲望の話などをされると、赤くなったりした。シゲ、おまえ、恥ずかしいんか? アホか、と笑われたりもした。

 片想いだったらしたけれど、愛するというほどの女性はいなかったから、寂しさも幼いものだった。
 大学生になってひとり暮らしになっても、回りにはアホ仲間が大勢いたから、そんなに寂しくもなかった。本当に秋は寂しいんだなぁ、と感じるようになったのは、恋をしてから。

 あんな恋はまやかしだったのだから、寂しさも気の迷いだったのだろう。妻と息子のいる今は、月を見ても寂しいとも悲しいとも思わない。

「恭子はどうだ? 月を見ると悲しいとか寂しいとか思う?」
「センチメンタルにはなっちゃうかな。遠い昔に別れたあのひとも、どこかでこの月を見てるのかしら、ってね」
「遠い昔に……」
「幼稚園のときの友達とか」
「……なるほど」

 それって男? と問い返すのは野暮だろう。幼稚園のときの友達かぁ。俺にだっていたけれど、泉水以外は特には思い出せないでいた。

「それよりもね、あの月……」
「うん?」
「月でうさぎがお餅をついてる。っていうよりも、月全体が黄金いろのお餅に見えるんだよね」
「そうだな、黄粉餅だ」
「おいしそう……」
「腹減ったな」
「お餅、あるよ。黄粉もあるよ。夜食を作ってこようっと」

 そう言われると、俺も食欲が湧いてきた。
 幸せすぎて月を見ても悲しくも寂しくもない。月が餅に見えて腹が減る。恭子も俺と同類で、こんな夫婦には風流は解せないのも当然かと思える。

 だが、そんなことを言っていてはいけないのだ。月見れば千々に腹こそ減りにけり……これでは盗作だから、オリジナルのハッピィ俳句を詠まなければ。

SHIGE34歳/ END









 
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~ Comment ~

NoTitle

おおえのちさと という人がいたんですね。
大江千里さんは、この人の名前を借りたのでしょうね。
この歌も、しみじみとしていいなあ。
私は百人一首なんて、何も覚えていないんですが。
きっとしみじみとした名作がたくさんあるんでしょう。

でも、シゲちゃんはしげちゃんらしい、ハッピーな歌を作って欲しいですね。
月を見て、しんみりしてばかりじゃ、仕方ない^^

でもかくいう私も、今タイトルに月がはいった物語を考案中で、月を思い浮かべながら、どっぷりセンチメンタルになっています><
やっぱ、そうなりますよね、月って。

limeさんへ

いつもありがとうございます。

遠い昔にあの歌手の大江千里さんの名前の由来を聞いたことがあります。
彼は大阪出身なので、大江橋(淀屋橋近くの橋)と千里から取ったと。
だけど、「おおえのちさと」さんを意識もしてますよねぇ。
有名人の名前の由来はまちがって伝わっていたりもしますから、どっちなのかな? 両方かな?

百人一首の歌では
「瀬をはやみ、岩にせかるる滝川の
割れても末に会わんとぞ想ふ」なんかも好きです。
私も高校のときに担任の先生に「歌留多大会に出ないか」と言われて、無理無理無理~って必死で断った経験があります。
歌会始めに生徒の短歌をまとめて送って、たまに入賞したこともあるらしき高校でした。

で、limeさんは月の物語を考えてえられるのですか。
おぼろ月、切ない月、不気味な月、月のうさぎ、中国の伝説、月桂花、かぐや姫などなど、いろいろありますねぇ。
limeさんがどんな月物語を書かれるのか、楽しみです。

暑中見舞い申し上げます。

毎日暑い日が続きますね。そちらも暑いんじゃないですか?親戚の子供が遊びに来てます。まだ小さいので騒がしいですね。

百人一首は学生時代に少しやって以来ですね。一度だけ百人一首の大会を学校の体育館でやりましたが、惨敗でした(笑)。
百人一首は月に関する事が多かったような感じですが、どうだったかな?

そういえば自分はいつも鍵ですが、もう癖になってるんですよ(笑)。
鍵にした相手の返信コメって、お相手は公表したくないから鍵にしてるから、どのような感じでお相手に返せばいいか悩みますね。
確かに自分で読んで鍵にせんでもいいかなって思ったりもしますけど、たいがい自分の事話すからつい鍵をガチャってかけてしまうんですよね。おいらは恥ずかしがり屋のようなもんです。でも今回は久々の公開にしました。

また洋画観ましたが、今回は「ジュラシックワールド」と「ミッション:インポッシブル/ローグネイション」です。この二作は20年くらい続く長寿シリーズなので、あかねさんも観た事あるんじゃないですか?

想馬涼生さんへ

ご丁寧に恐れ入ります。
たまにすこしましな日もありますが、まだまだ暑いですね。
夏は短いけど、私はやっぱり冬のほうが好きです。

百人一首一覧というサイトもありますよ。
たしかに「月」は多いですね。
我が家には百人一首の歌留多がありまして、子どものころからなじんでいましたので、いくらかは覚えています。
子どものころに覚えたら忘れませんよね。

コメントをいただくのはいつでも嬉しいですから、鍵はかけていなくてもどっちでも、ご自由に書いて下さいね。
お返事のほうは、これ、書いていいのかな? って悩みますが。

「ジュラシックパーク」はかなり昔に見ましたね。
スリルありましたね。

想馬さんは「進撃の巨人」はいかがですか?
私は漫画は半分くらい読みましたけど、内容的には好きになれません。
キャラの区別がつかないし、地獄絵図みたいでげんなりしますし。
でも、人気あるんですよね?
なにかしら、人々に訴える魅力があるんでしょうね。
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