ショートストーリィ

ポチシリーズ「born again」

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美月さんの「祖父恋」に登場するポチをお借りしてのショートストーリィです。ポチには何度か登場してもらっています。
「祖父恋」を読んでおられない方でもなんの支障もありませんので。
ポチをシリーズ化できたらいいなぁ。美月さん、ありがとうございます。


「born again」

1

 犬ではあるが、ポチは魔法使いなのだから、同族よりも人間と心の触れ合いをするほうが多い。
 最近は飼い主の宮田京介さんの提案で、タイムトラベルごっこをしていて遊んでいる。ポチには現実的に役立つ魔法技術はほとんどなく、ファンタジーの領域のようなことしかできない。もっとも、京介さんは言っていた。

「それだからこそ魔法なんだよ。それでいいんだよ」
「ワンっ!!」

 他人もいる場所ではポチは、ワンとかガウとかバオオーンとか話す。発声器官は犬なので、声に出して人間語は話せないのだが、内緒で京介さんとテレパシーで語り合うことは可能だった。

 長く働いた会社を定年退職した京介さんには、時間はたくさんある。それでも、若くはない京介さんにはタイムトラベルはたいそう疲れる行為のようで、そうたびたびはできない。京介さんの気力や体力が欠乏しているときには、普通の犬と飼い主として家の近所を散歩していた。

「あら、宮田さん、いいお天気ですね」
「こんにちは、おー、ジョンは大きくなったなぁ」
「犬って成長が早いですよね。身体は大きくなったけど、中身はまるで子どもなんですけどね」
「それもまた可愛いですな」

 立ち止まった京介さんは、よくこのあたりで会うおばさんと話をしている。おばさんは竹原さんといって、半年ほど前から仔犬と暮らすようになった。

 はっきり言わせてもらえば、たいていの犬はポチから見れば知能指数が低すぎる。人間以外の動物の中では犬はかなり利口なほうらしいのだが、ポチの知る限りでは、おばあさん猫のほうが頭がいい。猫は人間におもねらない上に面倒くさがりなので、頭のよくないふりをしているだけだ。

 時々は犬の中にも、ポチと話の通じる奴もいる。けれど、仔犬なんてものはポチの話し相手にもならないので、おまえは傲慢だよ、と京介さんに叱られない程度に遊んでやるだけだった。

(ポチ、こんにちは)
(あれ? ジョンはこんなふうに僕と話せたっけ?)
(あっ、話せた!! できたよ!! 成功したっ!!)

 はじめてジョンと会ったときには、彼よりはかなり大きなポチに仔犬らしくじゃれついてきたり、きゃんきゃんくんくん言ってしっぽをふったりしていただけだった。
 ポチは茶色の柴犬、ジョンは白い小型犬で、なにやらいう犬種らしいが、ポチにはそんなことはどうでもいい。ジョンだって自分がどういう種類の犬なのかはどうでもいいだろう。

 いずれにしても小型犬なので、大人になりかけていてもジョンはポチよりも小さい。こんなガキと……という見方しかしていなかったので、ポチは彼と会っても犬語で、おっす、と挨拶するぐらいだった。

 なのに今日は、ポチが人間と話すときのようにジョンと話している。テレパシーなので厳密には人間語とはちがうのだが、ポチの感覚ではこんなふうだ。ジョンもすこし驚いたように、できたできたとしっぽを振っている。人間たちが立ち話をしている横で、ポチもジョンと寄り添って話した。

(ポチは魔法が使えるんでしょ)
(うん、まあね。きみは人間ともこんなふうに話せる?)
(話せないよ。ポチとだけだよ。他の犬にも通じないもん)

 ならば、ジョンが他言することはないだろう。ポチは魔法使い犬なんだよ、とは。

(僕がいつもお母さんに連れられて散歩する道に、とてもなつかしい家があるんだ。その家にはおばあさんがいて、猫も一匹いるんだよ。おばあさんとその猫もなつかしいんだけど、猫は外に出てこない。おばあさんは犬は怖いって言って、僕には近寄ってきてくれないんだ)

 詳しく聞くと、その家は宮田家と竹原家の中間ぐらいにある、水無月さんのお宅らしかった。たしかにその家にはおばあさんと猫が暮らしていて、京介さんとおばあさんは挨拶だったらかわしていた。

(猫はミータって呼ばれてた。窓辺にいるミータがなぜだかなつかしくて、目が合ったときに話しかけようとしたんだけど、ミータは怒ってシャーーッ!! って吹いて、逃げていっちゃったよ)
(うん、わかる。僕は猫よりは身体が大きくて強いはずなんだけど、シャーーッ!! って怒られると怖いよね。悪魔みたいな顔になるんだもん)

(怖いのは怖いんだけど、どうしても気になるんだ)
(ジョンはミータに恋したの? ミータって女の子だよね。だけど、犬が猫に恋してもかなわないはずなんだけどな)
(そうじゃないよ。僕には好きな犬の女の子はいるもん。その子への気持ちと、ミータへの気持ちは別だ)

 好きな女の子犬って誰? という質問はまたの機会にすることにして、ポチはジョンに先を促した。早く本題に入ってもらわないと、人間たちが動き出してしまう。幸い、京介さんと竹原さんは子どもや孫の話を続けていた。

(いっぱい考えてるうちに思い出したんだ。僕は犬のジョンとして生まれてくる前は、水無月さんちの猫だったんだよ。今年のはじめに水無月さんちの猫が死んだだろ)
(ポンタだっけ? 大きな猫。そうだったね。え? 本当に?)
(本当だよ。嘘はついていない!!)

 断固として言うので、ポチは信じることにした。

(きみはポンタの生まれ変わりか。それで、どうしたいの?)
(僕は水無月さんちのおばあちゃんが大好きだったんだよ。僕は……ポンタは水無月さんのおばあちゃんに拾われて、本当の孫みたいに育ててもらった。十七歳で死ぬまで、それはそれは可愛がってもらって幸せだったんだよ。おばあちゃんにはミータがいるから、ポンタが死んだ悲しみをまぎらわせてもらったみたいだけど、僕は生まれ変わってきたよ、近くにいるよって、おばあちゃんに知らせたいんだ)
(う、うーん……)

 そんなことを言われても、僕がどうにかしてあげると安請け合いはできない。ポチが魔法使いだというのは基本的には厳然たる秘密だし、もしも秘密を明かしたとしても、人間によってはポチのテレパシーを感じ取れない者もいる。もしも水無月さんのおばあちゃんが信じたとして、高齢ゆえにびっくりしすぎて……なんてことになったらなんとする。

 咄嗟に返事ができないでいるポチに、京介さんが言う。行くよ、ポチ。竹原さんも京介さんにお辞儀をして、ジョンはおばさんに引っ張られていった。

(ポチ、なんとかしてね。お願い。きみだけが頼りだよ)
 ジョンの残留思念が、ポチに訴えていた。


*** *** *** *** *** *** *** *** *** ***

「そうかぁ、そんなのって本当にあるんだね」
(あるんだよ。ねぇ、京介さん、どうしたらいいと思う?)
「う、うううーん……」

 夕方のポチと同じように、京介さんは唸り声を上げる。ただ、京介さんは魔法使い犬にもできないことをしていた。腕を組んで唸っていたのだった。

「そうだね。ジョンはミータには伝えられないのかな」
(ああ、そっか。人間にはテレパシーは伝えられないって言ってたけど、猫が相手だったらできるかもしれないね。だけど、ミータって怖いんだよ)
「猫も犬を怖がってるよ」
(そうかなぁ、馬鹿にされてる気がするよ)

 ははっと笑って、京介さんはポチにリードをつけた。おじいちゃん、こんな時間に散歩? と、家の中から声がする。ああ、夕方はお喋りばかりして、ポチも僕も歩き足りないんだよ、と応じて、京介さんは庭から出ていった。

(どこに行くの?)
「水無月さんのお宅だよ。近くまで行けば、ポチにだったらミータに話しかけられるだろ。怖いなんて言ってないで、ジョンのためにがんばってやりなさい」
(……やってみます)

 緊張しながらも、ポチは京介さんに連れられて歩いていく。水無月家が見えてくる。二階の窓にカーテンがかかっていて、猫のシルエットが浮かんでいた。

(ミータ、ミータ、ミータ、僕を知ってる? きみのおばあちゃんとは友達の、宮田のおじいちゃんちの犬、ポチだよ。聞こえたら返事をして)

 返事というよりも、むにゃっ? というような声は聞こえた。

(犬と猫とはテレパシーでは話はできないのかな。だけど、僕の心の声は聞こえてるんじゃない? 理解もできてるよね。きみたちは頭がいいんだもん。ミータはポンタが好きだった?)
(うみっ?)

 明確な言葉にはならない、ミータの思考がいくらかは読み取れた。
 ミータも水無月のおばあさんに拾われた猫だ。おばあさんがミータを連れて帰ったときには、ポンタは怒りに怒った。ごはんも食べずに抵抗していたそうだが、そのうちには諦めたのか、ミータを受け入れてくれるようになった。

 あんたなんか嫌いだよ、とは言われたらしい。叩かれたり、ジョンやポチにとっても怖い、シャーーッ!! も浴びせられたらしいが、ミータはポンタが好きだった。

(みゅーー……)
(そうなんだね。ジョンって知ってるでしょ? 今度、ジョンがきみの家の前を通ったら、怒らずによーく見てみて。きみにだったらわかるんじゃないかな。わかったら僕にも教えて。わかったらそれとなく、おばあさんにも教えてあげて。きみとだったら時間をかけたら、すこしは話しができるようになるような気もするよ)
(みゅん)

 わかったよ、とミータがうなずいた気がする。二階の猫のシルエットが、そんな仕草をした。
 じっとそばに立って、ポチのテレパシーを聞いていた京介さんにも、話の内容はわかったのだろう。帰ろうか? と微笑んだ京介さんに、ポチは言った。

「わんっ!!」
「ああ、そうだね」

 僕、猫語の勉強もするよ、魔法使いなんだもん、できるよね、と言ったつもりの犬語も、京介さんには通じていたようだった。


END







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~ Comment ~

うん、すごくいい♪

すぐに読ませていただきましたよ。とても読みやすかったです。
もう~ジョンもミータも可愛い。ほんと、目の前に浮かぶようで、
楽しかった。これからも読みたいです♪
「born again」名前も素敵です。楽しみにしています。

それにしても、あかねさんがお書きになる京介さん、なんて素敵なんでしょう。私は京介さん萌えでしたe-349
前に言ったかもしれませんが実は、この京介さんという名前は
氷室さんから頂きました。なんとなくですが。

もしお時間ができましたら、もっと京介さんのお話も書いて頂けないでしょうか?一日何回もお邪魔しちゃいますね・・・きっと。

ポチですがあかねさんにここまで書いて頂いて、本当に幸せものです。
あかねさんが、自由に・・・お好きに・・・どうぞ使ってくださいませ。私に遠慮とかは御無用です。あかねさんの書かれるお話大好きですから。
ポチは婿に出しましたよ!よろしくお願いします。

美月さんへ

コメントありがとうございます。
愛用のパソコンの調子がおかしくて、今は別のパソコンで書いているのですが、もしかしたら修理に出さなくてはいけないかもしれなくて、訪問や返信ができなくなるかもしれません。
しばらく来なかったらそのせいだと思ってやって下さいね。

早速読んでいただいて嬉しいです。
京介さんって氷室さん……ああ、そうだったのですね。
今回、ミータとポンタんちのおばあちゃんの名前は、ミヅキさんにしようかとも思ったのですが、アレンジして水無月にしました。
このストーリィはちょこっとだけ実話というか、願望というか、なのです。

ポチ~お婿にもらったよぉ。ということは、お嫁さんも探さないといけませんね。
今度はポチと京介さんの活躍するラヴストーリィなど、がんばってみます。

了解しました

パソコン、よくなるといいですね。

こっちはまたいつでもあかねさんのお時間ある時にぶらっと来ていただけたら嬉しいですから。

水無月さんもいいネーミングだなと思ってました。

そうですか・・・あかねさんの願望も入っているのですね。
いいお話ですよ、とっても。
情景が浮かびますもの。

京介さんもっと出てきますか・・・わくわく。
ポチも恋をしたりするのかな・・・ポチは人間の言葉を話すだけに、
こっちもドキドキしそうですね~。
いつでも待ってます。

美月さんへ

パソコンは故障ではなかったようで、メーカーのサポートセンターで教えてもらって自分でどうにかしました。
メールはまだ使えないのですが、ネットは大丈夫です。
ご心配おかけしました。

やっぱり慣れたキーボードがいいですね。
ノートパソコンのキーボードは大の苦手です。

うちには猫が二匹いたのです。そのうちの年寄りのほうが去年、逝ってしまいまして、今年になって出会った犬にこんな妄想を抱きました。

http://quianquian.cocolog-nifty.com/blog/2013/09/post-f782.html

このストーリィはここからできたのでした。

今どき、人間が主人公だと純粋な恋愛ものなんて書きづらいですよね。
その点、ポチだとほんとに純だから、可愛い物語になりそうです。
うまく書けたらいいのですけど。
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