連載小説1

「I'm just a rock'n roller」11 

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「I'm just a rock'n roller」

11

 好きだったのに。冬紀にもうひとりのカノジョがいても、私が本命だと信じていたのに。真菜との差別化をはかりたくて、音楽の勉強まではじめたのに。

「新しいメンバーが入ったし、新曲に向かってのプロジェクトが動き出してるってのもあるんだよ。しばらく会えないけど、また連絡するから」

 そんなメールが届いたのは、去年の暮れだっただろうか。すみれは音楽専門学校の通信教育部門への入学を決めていたので、自分もなかなか忙しかった。冬紀の仕事の邪魔はすまい。私は私で活動して勉強もして、今度会ったら専門的な知識を披露して冬紀をびっくりさせてやろう。

 決心して、がんばってね、との返信をして、すみれはおとなしく待っていた。
 が、待てど暮らせど連絡がない。電話は無理でもメールぐらいできるのではないか。すみれはおずおず、冬紀にメールをした。

「プロのロックバンドって忙しいんだね。身体は大丈夫? 無理しないでね」
 返信はなかった。

「わがままは言いたくないけど、ちょっぴり寂しいな」
 二度目のメールも黙殺された。

「メールもできないほど忙しいの? ごはんはちゃんと食べてる?
 掃除とかしてる? 休みはないの? 外で会わなくてもいいから、冬紀くんのおうちに行ったらいけない? ごはんを作ってあげるよ」

 三度目も返事はなし。その後のメールもことごとく無視された。

「メールは迷惑? 迷惑だったら言って。せめて返事ぐらいしてよ」
「休みもなしで働かされてるの? ロックバンドにだって労働基準法ってあるんじゃないの?」
「真菜さんとは別れたの?」
「ほんとに仕事で忙しいの? また別の彼女ができたんじゃないの?」

 こんなにも無視されると、直接話したくなってくる。メールではなくて電話をしたいのを必死でこらえて、真菜は最後のつもりのメールを送った。

「一度くらい、短くてもいいから返事をちょうだい。でないともう別れるから」
「もう無理だな。うん、さよなら」

 届いたのはそんな返事で、本当に別れることになってしまった。呆然として、電話をかけようかと迷ったり、いいよいいよ、あんな奴とはこっちから別れてやる、と怒ったり、ひとりで葛藤を繰り返した挙句、おしまいにするしかないと決めた。

 どの道すみれがわめこうが叫ぼうが、冬紀がそうと決めたらどうしようもなかったのだ。引き際は潔く、せめてかっこいい女のふりをしよう。

 あっけなさすぎる別れの顛末は、誰にも話していない。優子にだって話す気にはなれない。私にはこんなに冷たかったくせに、真菜さんとだけは会っていたりするんだったら、ふたりとも許さない、とは思っているが、許さないってどうするの? と自問してみても、具体的にどうするのかはわからないのだった。

「もういいのよ。私は二度と恋なんかしないの。男って不実なのが普通なんだもんね」
「男ってっていうか、不実なのは友永くんであって、すべての男がそうではないんじゃない?」
「大槻さんって恋をしたことがないんじゃない?」
「大人の恋はしたことないかな」

 大人の恋ってどんなの? と浮かんだ疑問は脇にどけておいて、すみれはクールに言った。

「男なんて不実なのが当たり前だと思っていたほうが、安らかでいられるよ」
「そうなのかなぁ」
「うん、ま、いいの。彼氏なんかいないほうが勉強に集中できるもの。だからさ、大槻さん、ジョーカーの話はあまりしないでね」
「……うん、わかった」

 ジョーカーの話をしないのだったら、共通の話題はない? いや、そうでもないだろう。すみれと優子は専攻分野は別々だが、同じ学校で音楽を学ぶ者同士だ。男なんかよりも女友達がいい。すみれは当分は恋などせず、学究の徒として生きるのだ。

つづく






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