ショートストーリィ(しりとり小説)

66「あなただけ」

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しりとり小説66

「あなただけ」

 ツィンテールに丸いメガネ。彼女の名前は佐紀。九十九正義はおたくではないが、アニメ系男子だったら萌え!! とか言うのではないだろうか。
 大学生になってようやく彼女ができて、正義はうきうきしていた。

「佐紀ちゃん、土曜日は予定ある?」
「えーっとね」

 手帳を取り出した佐紀は、あっさりと言った。

「同じゼミの女の子たちとショッピングに行くの」
「そうなんだ。日曜日だったら暇?」
「お母さんとお姉ちゃんと買物に行って、夜はすき焼きって約束してるの」
「ああ、そう」

 ショッピングは女友達と行ったほうが楽しいだろう。家族とすごす休日も大切だろう。週末のどちらか一日くらいはデートしたかったが、まだつきあいはじめたばかりなのだし、ワガママは言わずに正義は我慢した。
 週が明け、学校で会った佐紀に正義は尋ねた。

「佐紀ちゃん、土曜、日曜は楽しかった?」
「うん。九十九くんは?」
「僕は別になんの用事もなくて、勉強していたよ」
「えらいじゃん。九十九くんのそういう真面目なとこ、好きだよ」

 好きだと言ってもらったので気をよくして、正義は言った。

「あの映画、観たいんだ。佐紀ちゃんもああいうの、好きでしょ。ほら、だいぶ前から話題になってるイギリスの映画、「コーンウォールの街角で」っての」
「ああ、あれ、封切られたよね。私も観にいくの。マミと約束したのよ」
「……あ、そ」

 映画って恋人同士で見にいくものだと思っていた、僕の認識はまちがっていたのだろうか。ここで、僕と行こうよ、と強引に言う勇気は正義にはない。仕方なく、言った。

「お昼、学食で食べる?」
「そうだね。行こうよ」

 ランチにだったらつきあってくれたのでほっとして、正義は佐紀と学食の椅子に並んで腰かけた。顔見知りの学生たちも、佐紀と正義はカップルだと知っている。遠慮して他の者は近づいてはこず、佐紀は楽しそうにお喋りをはじめた。

「今度の土曜日にはゼミのみんなで、遊園地に行くの。日曜日は家族みんなでごはんを食べる日なんだけど、お父さんが出張だから、姉と母と私の三人でお寿司を食べにいくんだ。お母さん、先月は残業が多くてお給料も多かったから、おごってくれるんだって」
「よかったね」

 笑ってみせても、正義の顔はひきつっていく。
 遊園地にだって恋人と行きたいものじゃないの? 僕は佐紀ちゃんに正式に告白して、佐紀ちゃんがOKしてくれたんだから、正式なカップルになったものだと思っていた。あれは僕の勘違いだったのか。言えないだけになおさら、正義の表情が強張っていった。

「どうしたの、九十九くん?」
「どうもしないんだけど……僕は今度の土、日も暇だな」
「勉強すればいいじゃん?」
「僕はそんなに勉強が好きなわけではないよ」
 
 ひょっとして、九十九くんは勉強家だから邪魔をしては悪いとでも? 佐紀がそう考えているのかと思い当たって、正義は言った。

「夏休みには海にいこうか」
「いいね、みんなで行こう」
「……女の子は海に行くって言ったら、水着を買ったりするんでしょ。僕も買おうかな」
「九十九くんはどんな水着? 新しいのを買うの? どんなのか見せてもらうの、楽しみだな」

 ということは、一緒に買物に行く気もないわけだ。軽く愕然とした気分になったので、思い切って言ってみた。

「佐紀ちゃんとデート、したいな」
「今、してるじゃない?」
「佐紀ちゃんって僕の彼女?」
「そうだよ。九十九くん、好き」

 嫌われているのでもなさそうなのに、佐紀の認識するデートと、正義の思うデートが噛み合わないだけなのか。正義の頭は混乱してきた。

「フォレストシンガーズのコンサートがあるでしょ。チケット買えたよ。九十九くんも行くの?」
「えと、佐紀ちゃんは誰と行くの?」
「お姉ちゃん」

 ちょっと本気で愕然としていると、佐紀は言った。

「今夜も一緒にごはん、食べようよ」
「う、うん」
「じゃあ、そのときにね」

 正義が入部した合唱部のOBたちのグループがフォレストシンガーズである。正義は歌が好きなだけであって、特別に上手でもない。フォレストシンガーズには親しみを感じていたが、ああなりたいわけでもない。
 それでも、フォレストシンガーズのライヴといえば行きたい。そういうところにも恋人と行きたいのが当然の感情ではないのか。

 午後の講義に出る気にならなくなって、正義は合唱部の部室に足を向けた。こんな時間だと誰もいないのかと思っていたら、正義と同じ二年生がひとり、窓際にすわっていた。

「時田くん、講義は?」
「さぼり。九十九くんも?」
「まあね」

 人数の多い合唱部では、同学年でも全員と親しくはならない。時田とふたりきりになるのははじめてだったので、なにを話そうかと戸惑っていたら、彼が言い出した。

「女の子ってのはわがままだよな」
「彼女の悩み?」
「そうだよ。俺にはよその大学に彼女がいるんだけど、なんでもかんでも俺と一緒にやりたがるんだ」
「それが普通かもね」

「普通なのかなぁ。俺が男ばっかでゲーセンに行くって言ったら怒るし、母の日のプレゼントを買うって買物にまでつきあわせたがるし、ファッションショーにまで一緒に行こうって」
「遊園地とかも行く?」
「俺はあんまり遊園地なんて好きじゃないけど、行きたがるのに行かなかったらすねて大変だから、行くよ」

「映画も?」
「行くよ」
「旅行も?」
「旅行はまだだけど、去年はプールとかには行ったな」
「いつも一緒?」
「そうだよ。なんだよ?」

 時田は不思議そうに尋ねた。
「九十九くんにも彼女がいるのか」
「うん、まあ、いるんだけどね」

 僕の彼女はどこにも一緒に行ってくれない、図書館、昼食、夕食、あとは学校で会う程度だ。それが寂しいと言うと子どもみたいなのか。きみの悩みは贅沢だよ、と言って正義の話もすれば、おまえのほうが贅沢だ、と言われるのか。

「うん、女の子ってわがままだよな」
「だろ。だけど、俺、彼女が好きだからさ」
「僕もだよ」

 結局はそこにいきつくのか。
 あまりにも「あなただけ、あなたと一緒にいたい」とすがられてもわずらわしいし、別行動ばかりというのも寂しい。ほどほどはむずかしい。
 かといって、時田と正義が彼女をとりかえっこするわけにもいかないのだから、本当にむずかしい。正反対の悩みを持つ時田と顔を見合わせて、正義としては苦笑いするしかなかった。

次は「け」です。

「主人公について」

蛇足ながら、小さなストーリィの各主人公について補記しておきます。
フォレストシンガーズの大学の後輩、33「スペシャルレディ」の日向房子が合唱部キャプテンのときにサブだった九十九正義、大学二年生の初夏のある日です。





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~ Comment ~

すれ違いますね

どうして、こっちとこっちがくっつかないのだろう、と思ったりします。考え方が同じでうまくいきそうな組み合わせで恋におちたらいいと思うけれど、そうはいかないんですよね。
これって、永遠の謎だわ。
でも結婚となると? どうんなんでしょう。
たまにぴったりのカップルだと、結婚に行きつくまでの期間が短いのかもしれませんが、あまり似たり寄ったりだと恋に落ちないのかも。恋って、意外性とかみ合わなさが、嵌る理由かもしれませんね。

大海彩洋さんへ2

しりとりのほうにも、ありがとうございます。

似たものカップルもありますし、同類嫌悪もありますし、恋愛となるとやっぱり縁なのですかね。結婚となるとさらになにかがもうひとつ、もうふたつ、ご縁があったという言葉も複雑なものがからみあっているのかもしれません。

私は恋愛体質ではありませんし、諦めはいいほうなのですが、書くものに出てくる彼や彼女は恋愛にはわりにしつこい場合もよくあります。
根はウェットで、ドライなふりをしたいだけの人間なのかなぁ、私、とか思っています。

あ、阪神タイガース、とにもかくにも二位決定。
それだけで嬉しいです。高望みはしません。とか言って実はちょっとだけは……の気分もゼロではないんですけどね。
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