ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS秋物語「色づく街」

 ←茜いろの森四周年です →小説354(一期一会)
フォレストシンガーズ

「色づく街」


 わざと避けていた東京。俺が十八歳からの五年間ばかりをすごした街。
 
「ヒデは東京に行くのか。えぃなぁ」
「あたしは大阪に行くちや」
「東京や大阪なんかよりも高知のほうがえいきに」

 東京の大学に合格したと告げたときには、同級生たちにうらやましがられたり、そんなところに行かなくてもいいのに、と言う女の子もいたりした。

「ほがなところに行かぇうてもいいがやき」
「へぇ、おまん、俺が好きながか?」
「……馬鹿がやないがかっ!!」

 怒って俺の腕を叩いて、走っていってしまったあの子は、本当は俺に恋してたんじゃないかと、にやついてみたりもした。
 それなりに女の子とつきあったり、それなりの経験もした高校時代は、勉強以外は楽しかった。真面目な両親はきちんと三人の子どもを育ててくれたし、生意気な妹も弟も、離れてしまうとなると可愛くなくもなく思えてくる。

 そんなものは全部捨てて、俺は東京の男になるんだ。かっこいい大学生になるんだ。
 決意を胸に抱いて上京してきて、大学を卒業するころには、歌手になるという目的を持つようにもなっていた。

 なのに、かっこいい男に、歌手になるどころか、若い身空で親父になっちまって、夢を捨てて東京も捨てた。

 ここに来ると知り合いに会うかもしれないから、東京を避けていたのか。離婚はそんなにも恥じることでもないはずなのに、俺がすべて悪いとの自覚があって、それでいて、もと妻に恨みもなくもなかったから、過去の友達や知人にも会いたくもなかったのだ。

 そうやって避け続けていた東京に、三十をすぎてやってきた。
 フォレストシンガーズ……俺の人生にやたらに影響を与える存在だ。そんなものは俺には関係ないと思っても、しつこくこだわってしまう。俺は粘着気質なんだな、とも思うが、これからは悪い意味でばかりこだわらなくてもよくなった。

 大学時代の先輩と後輩と、おそらくは親友だったはずのシゲと、五人で結成してプロとしてデビューしてから、約八年になるフォレストシンガーズ。ひとつなにかがちがっていたら、木村章ではなく俺がメンバーの一員だった。

 大スターというほどでもないが、男のヴォーカルグループとしてはいいセン行っているらしきフォレストシンガーズは、二年くらい前からすこしずつ人気をアップさせてきていた。全国ライヴツアーは去年が初だったそうで、俺は別の筋から誘われていたのだが、頑なに拒否していた。

 悪いほうのこだわりは残っているから、フォレストシンガーズのライヴには行きたくない。
 なのに、今夜はここでフォレストシンガーズのライヴがあると知って、その日を休日にしてもらって、昨夜、深夜バスに乗った。

「売れてないころには、俺も深夜バスで大阪に行ったんですよ。あれだったら安いから、寝てるうちにつくんだから悪くないよね」

 幸生が言っていたが、現在のフォレストシンガーズは深夜バスになど乗らないだろう。グリーン車でもないのだろうが、関西に来るとなると新幹線を使う。俺は庶民なのだから、バスに乗って神戸から東京に来て、母校を外から眺めたり、繁華街を歩いたりしていた。

 帰りのバスも深夜だから時間はある。フォレストシンガーズがライヴをやるホールに行ってみようか、行っても無駄だけどな、なんて考えながらも来てしまった。

「ほ……ぉ……」

 人気が出てきているのは知っていたが、ホールの前の広場にたむろして開場を待っているのは、ほとんどが女だ。下は二十代から、上はおばあさんと呼んでもいい年ごろの女性までがいる。うわぁ、女ばっかり……引きそうになる反面、いいなぁ、とも思ってしまった。

「ミホさんは誰のファンなんですか?」
「私は木村さん。アミさんは?」
「私は乾さんです。トミコさんは?」
「……本橋さん」

 連れであろうに、他人行儀な会話をしている女性グループがいる。インターネットのファンサイトで知り合って、一緒にライヴに来たのかもしれない。ひとりでは行動しにくいと考える女性はけっこういるものだ。

「本橋さんって乱暴そうだし……」
「そう? 乾さんは気障そうだから、私はあんまり好きじゃないな」
「本橋さんはステージでいばってません?」
「リーダーの役割なんだから」

 うん、そうだよ、本橋さんには乱暴なところがあって、乾さんには気障なところがある。彼女たちの会話に参加したくなって、俺ってスパイみたいだな、と苦笑する。

 ベンチに座って見上げれば、木の葉が色づきかけている。風流や風雅とは縁のない俺は、色づく葉っぱよりも、色気のある美女がいい。
 久しぶりで見た東京の若い女はいいなぁ、だなんて、気持を読まれたら痴漢扱いされそうなことを考えながらも、再び「俺の仲間たち」と呼んでもかまわなくなったフォレストシンガーズを想っていた。

END





スポンサーサイト


  • 【茜いろの森四周年です】へ
  • 【小説354(一期一会)】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

NoTitle

なんとも微妙な位置にいるヒデの視点。
やぱりヒデは、フォレストメンバーにはなれない人だったんだろうけど・・・。
後悔や寂しさもあるんでしょうね。
自分で決めた道だったはずなんだけど。

少しばかりの未練たらしさが、いかにもヒデらしくて、あまり好きなタイプの性格ではないんだけど、同情してしまいます^^;

そうか、やっぱりフォレストのファンは女の子ばかりなのですね。
ここがバンドとちょっと違うところなのかも。
このオフ会的な女性の会話w ありそうですよね^^

limeさんへ

いつも本当にありがとうございます。

私の中に最初に章が出てきて、それから次々にキャラができていき、ヒデがこんな形で出てきて、若いころは暗い暗い生活をしていたんですね。
うっとうしいのでヒデはあまり書きたくないと思っていた時期もありました。
ヒデはじめじめしてますから、読んで下さった方には嫌われるのかな。著者にうっとうしいと思われているキャラですものね(^^;
嫌いなキャラのアンケートを取りたくなってきましたが。

それはともかく、こうして長く書いていますと、ヒデのスタンスってものが固まってきて、このキャラ、いてよかったなとも思うようになりました。

ヴォーカルグループ系のライヴにも何度か行きました。男性ファンもいなくもないですが、熱心なファンは大多数は女性です。
limeさんのおっしゃる通り、ロックバンドとはファン層がちょっとちがっていて、ヴォーカルグループのファンの若い女性のほうが、ロックファンよりもダサいと言われているとかいないとか。
FSファンはどうなんでしょうね。うふふ。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

鍵コメSさんへ

コメントありがとうございます。

フォレストシンガーズのキャラの中では、章が大阪嫌いです。
大阪弁嫌い、大阪人気質嫌い!! だそうです。

大阪人はケチだとか、お笑い体質だとか、絶対に値切るとか、話にオチがあるとか、コテコテだとか。
いろいろ言われてますが、私はたいていあてはまりませんよ。
私はかっこつけなほうですので、値切ったことなんかないし。
喋るとモロ大阪弁ですけどね。

あちこちの球場に野球を見にいったのは、連れが巨人ファンでしたから巨人戦です。日ハムと楽天の試合でまーくんも見ました。
あとはひとりで球場だけ見にいったり。

この間、地元で元大阪市長の平松さんと目が合いました。思わず会釈したらむこうも頭を下げてくれました。私は平松さんのほうが好きです。

なのですから、あの人(誰だかおわかりですよね?)の思い通りにさせたらエスカレートして独裁者になりそうで、阻止したいです。
そういう意味で、投票には行きますよぉ。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

鍵コメSさんへ

追記もありがとうございます。

意外に投票率が高かったですよね。
いつもは選挙に行かない人間の多い大阪人も、さすがに今回は行きました。それでも70%だから、たいしたことはなかったかな。

あのあとの記者会見で橋下さんはさばさばしたふり……ではなく、演技をしているような気がしました。
まあ、そういう人ですから。市長を辞めたあとの身の振り方が楽しみですね。

USJには行ったことがないのに、宮崎シーガイアには行きました。東京スカイツリーとハウステンボスもすぐ近くまでだったら行きました。ディズニーはシーには行ってませんが、ランドには行きました。

こんなふうに書いているといろいろ思い出す……台湾の故宮博物館にも行きましたし、とか。
それはまあともかく。

もちろんUSJに行きまくっている大阪人もいますが、いつでも行けると思うと行かないのですよね。あべのハルカスは家からちょっと歩くと見えてますので、全然ありがたみがありませんし、USJに行きたいとも思わないし。

大阪はけっこう巨人ファンも多いですよ。
昔、宮本さんと森嶋さんの対談を読みました。

「ガンバとセレッソが優勝争いをしていたとしても、阪神タイガースほどは盛り上がらないよねぇ」と言っていて、ひがんでるね、と面白かったものですが、大阪は野球熱のほうがずーっと高いですね。

なんだか話がそれまくっていますが、今度の大阪府知事、大阪市長選は誰が立候補するんでしょうねぇ。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【茜いろの森四周年です】へ
  • 【小説354(一期一会)】へ