ショートストーリィ

SFもどき「究極のダイエット」

 ←番外編101(猫の島) →FS「コーヒーショップで」
 

「究極のダイエット」
   

 ドスン、バタン、ドサッ、バタバタバタッ、と音を立て、携えてきたちいさなものをあっという間に大型マシンに変えてしまった男とマシンを見比べ、てぃ子は尋ねた。

「なに、これ?」
「まあ見てて」

 男はシャツのすそを捲り上げ、自分の脇腹に、マシンから伸びたコードをくっつけた。なにやらを操作してなにやらすると……

「あれ、なに? 今、なにか……」
「わかった? いやあ、僕も最近おなかがちょっと出てきちゃってさ。それもあるし、てぃ子はいつもやせたいやせたいって言ってるでしょ。そこでこんなものをつくってみたわけ。僕からのプレゼント」
「それをこうしてああすると……? もういっぺんやってみて」
「あんまりやると肉がなくなっちまうよ」

 今度はてぃ子は男の腹をしっかり凝視した。たるんだ肉がすーっと消える。トリックなどではない。このマシンはなにをどうやるのかはてぃ子にはわからないものの、人の贅肉を消してしまう装置なのだ。彼が浮世離れした研究をやっているのはむろん知っていたが、こんな研究をしていたのか。

「ほんとに……ほんとなんだ」
「てぃ子もやってみる?」
「やってやって」

 20世紀のころから、女たちはダイエットに苦労したという。21世紀にもなればダイエット薬が発明されるだろうと期待されていたのに、21世紀も半ばをすぎた今も、副作用ゼロの薬などは存在しない。ゆえに、女たちはいまだにダイエットに苦労しているのであった。
 男はてぃ子の望みに応じて、あちこちの贅肉をデリートしてくれた。てぃ子は感激し、プロポーションのよくなったおのれのボディを鏡に映して飽きずに眺めた。

「でも、まだ試作品だからね。今は誰にも喋っちゃだめだよ」
「わかってるって。人に教えるのはもったいないよ」
 しかし、一度落ちた贅肉がもとに戻るのはたやすい。あのマシンがあるからいいもんね、と楽観して食べすぎたせいもあるだろう。
「またやってよ」
「じゃ、うちにおいで」

 数日ののち、てぃ子は男の住まいを訪れ、再びマシンに身をゆだねた。エステティックサロンの痩身マシンと感覚に差はないが、効果は天と地の差がある。

「もっともっと」
「いいのかな、やせすぎちゃうよ」
「ちょっとぐらい太っても大丈夫なように、もっとやせさせて」
「わかったよ」
 男はマシンをごちゃごちゃいじっている。てぃ子は天にも上る心地で囁いた。
「ああ……いい気持ち、このままどっかに行っちゃいそうだ」

***********

 さてと、と男は手をはたいた。大型マシンをたたんで小型のマシンに変え、デスクの横にしまって伸びをする。

 これは贅肉削除マシンだと、てぃ子に教えたのは決していつわりではないが、言わなかったこともある。このマシンには「全消去」機能がついているのだ。すなわち、贅肉をすべて消してしまう。邪魔になった恋人の肉体などは全身が贅肉なのである。

 釘をさすまでもなく、見栄っ張りのてぃ子はどうやってやせたのかを他人には言わなかったと確信できる。これで完全犯罪成立だ。死体が発見される道理はない。死体なんかないのだから。そもそもてぃ子は死んだわけではなく、消滅してしまったのだから。彼女の最期の台詞通り、どっかに行ってしまったのだから。
 しかし、どこに消滅しちまったんだろう。実験に使った動物たちや、完成間際に人体実験に使った人間たちとともに、何処とも知れぬ闇の中にでもいるのだろうか。

 ま、どこだっていいや。これで僕は自由の身になれたんだもんな。男はにんまりして、それっきりてぃ子という恋人がいたことすらも、さっぱり忘れてしまったのだった。

END


FC2小説のほうにもアップした、近未来小説、のつもり。
書き上げたのは21世紀初頭でした。





 

 

 
スポンサーサイト


  • 【番外編101(猫の島)】へ
  • 【FS「コーヒーショップで」】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

NoTitle

こんにちは。ちょっとご無沙汰でした^^
面白いですね。こんな機会があったら欲しいと思ったけど、危ない危ない(笑)
上手い話には裏がありますね。

公募ガイドの「小説虎の穴」に応募してみたらどうですか?
今月のテーマは、近未来小説です。
私も応募しますよ^^

りんさんへ

こちらこそ、ちょっとご無沙汰で、おこしいただいてありかとうございます。
FC2のほうでご感想を下さった方は、これはホラーだね、こわーい、と言って下さいました。
ダイエットマシンなんてものは、ひとつまちがえると本当に怖そうですよね。

公募小説ですか。
一応は「SF」とか「近未来小説」とかいうんだったら、このダイエットマシンに多少の理屈は必要になりますよね。
そこがクリアできるかどうか、考えてみます。
りんさんの応募作品は完成しているのですか? 応援していますね~。

いいですね

こういうお話もいいですね。
ちょっと怖くて・・・。
そう言えば、テンプレート、少し前に変わりましたよね。
銀河鉄道みたいでいいと思います^^

このままいろいろなショートストリーも読ませていただきます。

おかげさまで、こちらはやっと最終回を迎えることができました。
ありがとうございます!
あかねさんに励まして頂いたおかげです。

美月さんへ

近頃ネタが途切れていますので、こんな古いのも引っ張りだしてきました。
お読みいただいてありがとうございます。

このテンプレートは秋用のつもりです。
去年もたしかこれだったはずで、クリスマスにはまた変えて、クリスマスがすんだら冬用、それもすんだら桜、というふうに、テンプレートを変えるのは趣味なんですよ。
FC2はほんとにいろんなテンプレートがありますので、楽しいです。

美月さんの「ライムの香り」最終回なのですね。
おめでとうございます。明日にでも読ませていただきます。

NoTitle

これ、さらっとスマートに書き上げてありますが、よくよく考えれば、恐ろしい完全犯罪マシーンですよね。

ある意味、魔法のように消してしまえる。
これ、悪用されたら地球上の人類、すごく減っちゃいそうですね。

本当に、ぜい肉だけ消してくれる機械だったら、この世には痩身美人が増えて、ぽっちゃりさんはいなくなるかな。
・・・それはそれで、ちょっと怖い世界ですね。

私は今、ぜい肉を取る機械より、たるみを取る機械がほしいな。
重力が、今や敵です(爆)
あと、ルンバが欲しい。(買えよってww)

limeさんへ

あっさり淡々と書いて、よく考えたら怖い。本当にそんなふうに書けたらいいですよね。やっぱりこれ、ホラーかな?
中途半端ともいえるストーリィですが、limeさんにそんなご感想をいただけてうれしいです。ありがとうございます。

私も体重はこれでいいので、引き締まるマシンがほしいですね。
今やよほど運動でもしないと締まらない。そんな根性ないですから、手軽にすこし筋肉をつけたい。テレビでやってるそのたぐいの機械なんて、まったく信用できませんものね。

そういえば部屋中を掃除して回るルンバに乗っている猫の動画を見ました。憮然とした顔をしているくせに、ずっと乗っているのが面白かった。
あと、西原恵理子さんが描いてらしたのですが。
西原さんちの猫が下痢をしていて、あちこちに……わかりますよね? 尾籠な話で恐縮です。それをルンバが掃除したものだから、ぐっちゃぐっちゃになったとか。

limeさんのお宅にもわんこがいるそうですから、購入なさったあかつきには、そういう場合のルンバにはご注意ください。マシンは臨機応変ができませんものね(^^
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【番外編101(猫の島)】へ
  • 【FS「コーヒーショップで」】へ