ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS夏物語「熱帯夜」

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フォレストシンガーズ

「熱帯夜」

 ベースとドラムとピアノのジャズバンド、ピアノ・トリオというのだろうか。暗いライトの中で三人が演奏している。

「絶対音感ってあるだろ。意外にプロのミュージシャンには、絶対とつく音感はない場合が多いんだ。けど、絶対ではなくても音感はあるよな。絶対のつく音感なんてのはないほうが幸せかもしれないな」

 絶対音感については薀蓄や理屈の好きな乾さんがなんやかんやと講釈していたが、俺には実感としてはわからない。ただ、乾さんが言う通りで、プロのミュージシャンと名乗っている者には音感はないはずがなくて、俺にもある程度はあるわけだ。

 とはいえ例外もあって、おまえはそれでもシンガーか? と失笑してしまう歌手が日本には多々いる。歌手ではなく楽器を演奏するミュージシャンには、いやしくもそれを職業にしている者には、下手、と笑われるほどの輩はいないだろう。

 そのはずなのだが、今夜のピアノ・トリオの演奏はどこかおかしい。リズムが微妙にずれているのか? 一般的な人間よりは音に敏感な俺の神経にさわる。ジャズにはまるで詳しくない俺だって、有名なジャズピアニストやトランペットプレイヤーなどだったら知っているから、知らない名前三人の演奏者たちは無名なのであろうが。

 それにしたってこんな店で演奏して、ギャラだって支払われているだろうに、客を苛立たせるこの演奏はなんだ? おまけに妙に暑い。冷房をケチっているのか、こんな演奏を聴かされてエアコンもすねてしまったのか。出入りする客が開け閉めするドアから、おもての熱帯夜が忍び込んでくるみたいだった。

「この音、ルイちゃんはどう思う?」
「……わかんない」
「わかんないか」

 章さん、素敵な音楽を聴ける店に連れてって、と言ったのは彼女だ。
 私はロックは好きじゃない、とも言うから、ジャズクラブといった感じのこの店に連れてきたのに。

 フォレストシンガーズも八年目になってすこしずつは売れてきていて、今年はもうじき初の全国ライヴツアーがはじまる。その前にと、アニメソングのCDに参加することが決まった。以前からアニメソングアルバムには時々、曲を提供したりコーラスで加わったりしていた。

 その他にもちょっとずつ、フォレストシンガーズ本来の仕事以外の仕事も入ってくるようになって、多忙になるってのはありがたいと俺も心から思っていた。

「アニメの制作現場、見学したくない? 誘ってもらったんだよ。章も行こうよ」
「あんまり興味ないけどな……」

 声優さんのひとりに誘われたのは幸生。先輩たちにはふられたのだそうで、章も行こうよぉ、としつこくされてつきあってやった。今日の仕事は声優さんたちとの打ち合わせで終わりだから、暇だったのもあった。
 ハイビスカスプロという名のアニメを作るスタジオに案内してもらい、スタッフの女の子たちとも話をした。その夜は幸生も俺もスタッフたちも、大勢で飲みにいった。

 それから二度、ハイビスカスプロのスタッフたちと飲んだ。三度目の今夜、ルイと名前は知っていた女の子が寄って来て、素敵な音楽を聴ける店に連れてって、と囁かれたのだ。

 細身で小柄でセンスがよくて、露出度高めのファッションをしたシャープな美人。ルイは俺のタイプだし、ルイからしても俺がタイプだったのだろう。ふたりして居酒屋から抜け出してこの店に来た。

「前にもここには来たことがあるんだよ。あのときにはサックスメインのジャズをやってたんだよな。俺はロック好きだけど、ジャズも悪くないと思ったんだ。ルイちゃんには気に入らない?」
「気に入るとか入らないとかじゃないけど、感想って言われてもわかんないよ」
「ロックは嫌いってなんで?」
「なんでと言われても……」

 見た目で想像していたよりは、はっきりしない女だ。それでもまぁ、恋人になるわけでもなし、彼女が望むならベッドに入ってもいいな、程度の気持ちだったから、性格なんかどうでもいい。ルックスが好みだったらそれでいい。

「章さんは音楽が好きだから、音楽をって言っただけなんだけどね」
「お世辞だったのか」
「それってお世辞?」
「一種のお世辞だろ。まあいいよ。よそに行こうか」

 わかんないとしか思わない奴は、リズムが狂っていても気に障りもしないのだろう。それだったらジャズでもロックでも同じじゃないか。いっそディスコにでも行こうか。

 大学のときにたまに来たんだよ、と幸生が言っていたディスコが、近くにある。俺が大学生だった十年前だってディスコなんてものはすたれていたが、故意にそんなふうな内装や名前にして受けを狙う店もあり、それが成功する場合もあるらしい。

 当然のように俺に払わせて、ごちそうさまとも言わないルイと腕を組み、「ディスコ・フィバーナイト」だなんてベタな名前の店に行く。俺よりも十近く若いらしきルイは、もの珍しげに店内を見渡していた。
 この店は冷房は効いているようだが、踊っている人々の熱気で暑い。ディスコは年中熱帯夜のようだ。

 
「Shala-la-la 抱きしめられたら カーニバル
 Shala-la-la くちびるが踊る サマータイム
 Shala-la-la 君の記憶の胸元に
 Shala-la-la 激しく刻む熱帯夜 I want you
 I want you I want you

 頭は身体を突きはなす
 欲望と理性のメリーゴーラウンド
 燃える躍動が目を覚ます
 一千一秒胸張り裂ける I want you Try!!」

 ディスコミュージックというのでもなく、けだるい雰囲気のある曲が流れている。踊ろうか、とルイの手を取ってフロアに出ていく。ああ、この歌は今夜に似合いだ。欲望と理性がせめぎ合う……なんて、俺のなけなしの理性は、こうして踊っていればたやすく消し飛んでしまう。

「ルイ、このあと……」
「うふっ、くすぐったいよ」

 彼女から言い出すのを待っていたくなんかない。
 抱き寄せて耳元で囁くと、ルイも完全にその気になった様子で俺の胸に胸をぶつけた。


AKIRA/29歳 END




このアンケート、ブログ内にいくつかあるのですが、ここにも貼ってみました。







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~ Comment ~

タイトルの熱帯夜に男女の欲望がマッチしてアダルトで素敵です♪

絶対音感ある人は雨の音まで音符で聞こえて来るそうですね。

家電製品同士の音が合わないと頭痛がするとか、日常生活も大変そうです(>_<)


私もリンクさせてもらっていいですか??

(名前の「たおる」は花などを手折るからきています。深い意味はないです(^^;)響きが古風で素敵だなと、後、女性を自分のものにするって意味があるのですが、女性は置いといて(笑)色んなものを手にして邁進できそうな気がしてつけました。)

たおるさんへ

コメントありがとうございます。

たおるさん……「手折る」に通じるわけですね。私は真っ白なタオルを連想しましたが、そっちの意味でしたか。
たおるさんは男性なのですか? そんな気もしますが、もちろん性別はノーコメントでもいいんですよね。
ネットの住人には「性別ナシ」って方もいますし。

熱帯夜ってなんだか、人間を狂おしくさせますよね。
都会の熱帯夜、頭が変になりかけているまま突っ走る……そんなイメージが私にはあります。

音感ってものは私にはほとんどないのですよね。
歌だと、はじめて聴く歌でも下手な歌手が音をはずしてる、というのがわかる程度で、絶対音感は想像しにくいです。
プロのミュージシャンはむしろそんなものはないほうがいい、と誰かが言ってましたが、たしかに、絶対音感なんてあるとしんどそうですね。
初見で楽譜を読んで楽器が演奏できる、そんな音感だったらほしいですが。

リンク、していただけると嬉しいです。
今後もなにとぞよろしくお願いします。

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鍵コメsさんへ

コメントありがとうございます。
「熱帯夜」って歌は他にもあるみたいですが、この歌詞はイエローモンキーです。
大阪の真夏は熱帯夜続きですが、そちらの地方はいかがなんでしょうか?

絶対音感ってあると大変みたいですね。
車のクラクションや電話の音、電車の音なんかもみんな音符になって聞こえるとか。
近いものならあると言うひとは二、三人身近にいますが、あの程度だったらうらやましく思います。
私の母には多少あるらしいのですが、私はゼロですから。

歌を逆回しで歌えるというような人がいると書いてから、ほんとにそんな人いるんですか? と訊いてみたら、いるとおっしゃってましたよ、回文師の方が。
世の中、不思議な能力を持つ人間がいるんですよね。

最近アップした「なつかしいイラスト」というのが、四年近く前のブロ友さんたちをイラストにしてもらったものなのです。
見事に誰ひとり、続けてらっしゃいません。残っているのは私だけです。
本当にブログは短命ですね。趣味なのだから、やめるのも自由ですものね。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

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