ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS夏物語「漁り火」

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フォレストシンガーズ

「漁り火」

 こうしているとどうしたって、若かったころを思い出す。夜のとばりに包まれた海辺には、あのころは仲間たちの声が潮風に溶け込んでいたけれど、今は静か。心も静かなのは、私が大人になったからなのか。

「燈台それとも 窓の灯り
 いえいえあれは 漁り火
 誰かの呼ぶ声 汽笛の音
 いえいえあれは 海鳴り
 ひとりじゃ 生きてゆけない
 二人じゃ 死ねやしない
 漁り火 海鳴り 二人の愛
 いえいえ みんな まぼろし」

 砂浜に腰を降ろして沖を見ていると、こんな歌が聴こえてくる気がする。歌っているのは星さん? ううん、本橋くんと乾くんがデュエットしているんだ。台詞の部分も聞こえてきた。

「ときどき海をみたくなるのは
 みんな海から 生まれてきたからさ
 だけど そんなこと
 誰もおぼえちゃいない
 もちろん あなたも 僕も」

 いつだって私の回りには、元気な男の子たちがいる。オトコノコなんて言うと本橋くんは怒るけど、同い年の男性は二十七歳の私には子どもっぽく見える。乾くんは時にはお兄さんみたいだが、あとの四人は弟みたいに思えて、姉貴面するなっ、と本橋くんを噴火させる。

 なのに今夜はひとり。私はフォレストシンガーズのメンバーではなくてマネージャーで、オフィス・ヤマザキの社員なのだから、フォレストシンガーズ以外の仕事をするのも当たり前だ。今日は社長に命じられて、海辺の町へ出張していた。

 昼間はお役所で、町が主催する夏のイベントの打ち合わせをしてきた。オフィス・ヤマザキというとどんな歌手が所属しているんですか? 杉内ニーナがトップスター? 知らないな。フォレストシンガーズ? もっと知らないよ、町役場のみなさんにそんなことばかり言われた会議だった。

 こんな場では怒らないのも私の修養だ。顔で笑って心も穏やかに仕事を済ませ、海水浴シーズンでもないので閑散とした平日の旅館に荷物を置き、夕食をすませて外出しようとした。

「おひとりでお出かけ?」
「海辺を散歩してきます。今夜は寒くもないですから」
「あのぉ……まさかとは思いますが、早まらないで下さいね」
「早まる? 私は仕事で来てるって言いましたよね」
「ええ、でも、こんなところで仕事って……」

 仕事で来たと話したのを信用してもらっていないのか。いまだに女のひとり旅は傷心旅、早まるって自殺とか? というような考え方をする人がいるらしい。
 大丈夫ですよ、と言うのも疲れて外に出て、ひとりでここにすわって学生時代の合宿を思い出す。ぼんやりと空耳の歌に身をゆだねていると、隣に若い男の子がすわった。

「警戒しないでね。俺、おばさんに興味ないから」
「おばさんとは失礼ね。私はあなたよりも……」

 推定、十歳の年の差か。彼は高校生に見える。オカリナを手にした彼は学と名乗り、私は美江子とだけ名乗り、彼の吹くオカリナのしらべに耳をかたむけていた。

 家で吹くと近所迷惑なのか、家族に迷惑がられるのか、ここでならば思い切り練習できるからなのだろう。フォレストシンガーズのみんなも一緒に来ていたら、きっとここで練習したがるだろう。上手だね、と呟くと、学くんはオカリナを口から離した。

「美江子さんは楽器、できるの?」
「ほとんどできない」
「なんだ、素人か。そんなひとに上手だって言われても嬉しくないよ」
「だけど、私は歌のグループのマネージャーなんだよ。とびきり上質な歌を聴き慣れてるから、耳は悪くないはずなの」

 幼稚な反発心だな、と苦笑しながらも言うと、学くんが問い返した。なんてグループ? フォレストシンガーズ? 知らないよ、との反応は予想通りだった。

「売れてはいないけど、これから売れるのよ。夏休みになったらこの浜辺でイベントをやるの。そのときにはフォレストシンガーズも来るから、聴きに来てね」
「女の子?」
「男性五人」
「なんだ、つまんね」

 男の子なのだから、女性グループのほうがいいと思うのは健康的だろう。男のファンもほしいけど、まずは女性ファン開拓だな、と乾くんも本橋くんも社長も言う。さもあろうが、私としては学くんにもフォレストシンガーズに興味を持ってほしかった。

「フォレストシンガーズの歌、ひとつも知らないよね?」
「知るわけないじゃん」
「こんなのがあるんだけど……」

 デビュー曲の「あなたがここにいるだけで」をハミングしてみても、美江子さん、下手だから再現できないよ、と学くんは憎まれ口をきく。私が歌うとフォレストシンガーズのイメージを損ないそうなのでやめて、私も憎まれ口で応酬した。

「はじめて聴いた曲をすぐにオカリナで吹けないようだったら、学くんにもたいした才能はないね」
「普通は吹けるよ。おばさんが下手だからだろ」
「じゃ、これは」

 フォレストシンガーズのアルバムに収録されている曲の中に、フルートソロからはじまるラヴソングがある。そのメロディを口ずさんでみても、学くんはへへんと笑った。

「下手」
「どうせ下手ですよ。昼間の会議も気分よくなかったけど、こんなところで高校生にまで馬鹿にされるって、今日は厄日かもね。帰ろうかな」
「……ごめん。僕のオカリナ、もっと聴いていってよ」
「素直にするんだったら聴いてあげるよ」

 特別に上手というわけでもないが、聴いていて心地よいメロディだ。リクエストはない? と問われて、私は言った。

「古い歌だから知らないかな。ここで夜の海を見ていると、心に浮かんだの。漁り火」
「N.S.Pの?」
「知ってるの?」
「母さんがファンだったんだって。フォークソングのメロディってオカリナで吹きやすいんだよ。もっともっと上手になって、プロになりたいな」

 オカリナのプロとは相当にむずかしいと思えるが、やってやれないことはないはずだ。私は黙ってうなずき、学くんはオカリナを口にあてた。

「たとえばあなたは 静かな海
 たとえば僕は そそぐ川
 揺られてどこまで 小舟の旅
 いつしかつくよ ふるさと
 ひとりじゃ つらすぎるし
 二人じゃ ダメになる
 たとえばあなたは 黒いしんじゅ
 たとえば僕は 洗う波

 ひとりじゃ 歩けやしない
 二人でも つまづいた
 漁り火 海鳴り 二人の愛
 いえいえ みんな まぼろし」

 別に誰のことを想うのでもないけれど、心に沁み込んでくるような歌詞を口にのぼせる。学くんの口はふさがっているのだから、私が歌うしかないわけで、彼ももう下手だとは笑わず、夜風とオカリナとちょっぴり怪しい音程の私の歌と、遠くに見える漁り火が、私の気持ちをゆるやかにしていった。

MIEKO/27歳 END





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~ Comment ~

おはようございます!
この間から、コメントが上手く入らなくて・・(こっちのネット事情です^^;)

美江子さん、私はすごく懐かしいです。

高校生の男子とのやり取り、思わず笑いました。いいですよね。
また浜辺の感じがすごくよかったです。

美月さんへ

コメント、できませんでした?
FC2はわけのわからない「不正投稿」とか言ってコメントをはじく場合がありますので、それだったのかもしれませんね。FC2になりかわってお詫び申し上げます<(_ _)>

美月さんはフォレストシンガーズの学生時代もたくさん読んで下さいましたものね。
美江子がなつかしいと言っていただけると嬉しいです。

ありがとうございました。

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鍵コメSさんへ

コメントありがとうございます。

フォレストシンガーズって、たしか男女混合で、子どもの歌をうたってるグループが実在していました。
CDをアマゾンで検索してみたらなかったので、活動を続けておられるのかどうかは謎ですが。

私のフォレストシンガーズは、古今東西の男性ヴォーカルグループをごっちゃ混ぜにしたような感じです。
機会があればyou-tubeで、The Overtonesを聴いてみて下さいな。あそこのメインヴォーカルのティモシーくんの声は、幸生に似ていると勝手に決めています。

ジャニーズはまあ、第一に顔というか、ルックスありきですものね。
たとえに出すとフォレストシンガーズのみんなは、苦笑いすると思います。
案外、喜んだりもして。

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鍵コメSさんへ

Overtones、聴かれたのですね。
なんの曲でした? 私は彼らのアルバム三枚とも持ってますが、ティモシー以外の四人もたまにリードは取ってるみたいですよ。

三年くらい前でしたか、イギリスに行ってきたひとがお土産にくれたのが、彼らのファーストアルバムでした。いっぺんではまって、アマゾンであと二枚のアルバムを買いました。

彼らの小説は六年ほど前から書いてますから、フォレストシンガーズのほうが先です。私もオーバートーンズをyou-tubeで見て、うちの子たちはこんな感じかなと思った次第でして。

CDレーベルが去年くらいにようやく日本語サイトを作りましたけど、日本ではまったく知られてないんですよね。
来日しないかなぁ。生で聴きたいです。

アギーレさんにつきましては、やはり日本サッカー協会は、もっとよく調べてからお願いするべきだったんじゃありません?
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