連載小説1

「I'm just a rock'n roller」8 

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「I'm just a rock'n roller」

8


 いやぁ、まったく、女もいろいろだなぁ、と尚は思う。
 真菜と冬紀、恵似子と伸也が帰っていき、女房になんて言い訳しようか、とぼやきながらも耕平も出ていき、尚は芳郎と残された。

「芳郎さんとふたりっきりってのは……」
「おまえだけはなんにもなしか?」
「……はい」

 気の強い奥さんも、彼氏の前で別の男に告白する女も、はっきりしない小太りの女も……いなくてもいっか、と言うと強がりになりそうで、尚は曖昧に笑ってみせた。

「今度の曲、いいな」
「聴いてもらえましたか」
「プログレティストっていうのか、幻想的な香りもしていいよ。友永の作曲はたいしたもんだ。性格もあれだけこなれたらもっといいんだけどな」
「ご迷惑、おかけしてます」
「いいさ」

 ここだけの話し、と芳郎は、煙草に火をつけた。

「俺は友永みたいな男、好きだよ。おまえらっていいバランスなんだよな」
「……赤石は?」
「あいつも今までのジョーカーにはいなかったタイプだから、いいと思うよ。言うまでないけど、松下も武井も。音楽的にもグループ的にも」
「はい」

「おまえのヴォーカルが友永の曲に深みを増してるってのか。俺は評論家じゃないからうまく言えないけど、いいよ。断然いい。だけどさ、時代の波、流行を考えると、売れるかどうかってのは怪しいところかもしれないな」
「……そうですか」
「酒のほうがいいか」
「いえ」

 冬紀や伸也が相手だと、馬鹿野郎、ぼかっ、というような態度も取る先輩だ。尚はいつだって冬紀や伸也の陰に隠れているせいもあって、叱られたり殴られたりしたことはない。それでも畏怖、畏敬の念を抱いているからこそ、普段以上に言葉少なになっていた。

「……かっこよかったです」
「なにが?」
「いえ……」

 俺だったら真菜から迫られたらあたふたしてしまって、うまく言い逃れもできないにちがいない。真菜が俺に迫るはずもないけど、芳郎さんの対処はさすが、大人の男だなぁ、と思って、しかし、尚には上手に台詞にはできなかった。

「俺も帰ります」
「ほんとは飲み足りなかったんじゃないのか?」
「俺はそんなにのんべじゃありませんよ」

 地下鉄だったらまだあるだろ、はい、おやすみなさい、とのやりとりをかわして、尚は芳郎のマンションから出ていった。
 俳優やお笑い芸人ほどにメジャーではないだろうが、悠木芳郎はロック界ではビッグネームだ。マンションもさすが、と言いたくなる豪壮なもので、俺たちはいつになったらこんなところに住めるのか、一生無理かもな、と思ってしまう。

 けど、いつかはこれに近いマンションに住みたいな、とも思って、高層ビルをふり仰いでから、尚は背中を丸めて歩き出した。

 デビューしてから丸二年がすぎて、季節も春を迎えようとしている。夜は冷え込むけれど、マンション近くの豪邸の桜の樹が、ちらほら蕾をつけているのも見えた。

 本当の春になって、この花が咲いて散ったらニューシングルがリリースされる。芳郎は不吉な予言をしてくれたが、デビュー曲よりは売れるといいな。そしたらサードシングルも、アルバムも。ちょっとは仕事も増えて給料も上がるだろうか。

「顔のいい男もつらいんだな」

 見も知らぬ奴らに、おまえの顔だったらセクハラに利用できる、みたいに言われたり、若い女の子に迫られたり、俺はこんな顔でよかったかな、尚は苦笑いする。顔がどこう言われるよりは、ルックスでは勝負できないほうが潔くていいではないか。

つづく




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~ Comment ~

jokerをひそかに。
新メンバーが増えて、音に厚みがついたのでしょうね。
売れている先輩(?)がいると心強いかな。

良い、というのと、売れる、というのはどうしてこうも違うのでしょうね。
二枚目シングル、売れると良いですねぇ。
プロモーション、頑張ってください^^

けいさんへ

最初のうちはJOKER、読んで下さっている方もいらしたようなのですが。
このごろは読者さまがいらっしゃらないのかな、と思って、あまり更新もしていませんでした。

けいさんは読んで下さっていたのですね。
ありがとうございます。

JOKERの原型はずいぶんと昔に書いたもので、焼き直しをしています。
原型のJOKERストーリィとはちょっと変わっていく予定です。
けいさんがお読み下さっているのでしたら、また更新しますね。
とはいっても、まだ続編は完結させていませんので、まずは書き終えないとね。
がんばります。

お久しぶりです

あかねさん、今日は5話ほどまとめて読ませて頂きました。

私はけいこちゃんに結構感情移入するのですが(笑)
やはり、尚くんも捨てがたい。
私は尚くん、すごくいいキャラだなあと思います。

これはもう少し前に書かれた話でしたか?去年の夏ですか?

先がすごく楽しみだし、長さもすごく読みやすいです。
私もそろそろ頭を小説に戻したいのですが、
自治会とかなんとかの引き継ぎやらで、いつも以上にばたばたで・・・
・・・
でも頑張ります。
ありがとうございます!^^

美月さんへ

ありがとうございます。
JOKER、読んで下さっていたのですね。

これは去年に書いたものです。
一応、完結はしていて、さらに続編にもとりかかってはいるのですが、ついJOKERはほったらかしてフォレストシンガーズに走ってしまいまして。

現実生活もいろいろあるから、そっちが優先になってしまいますよね。
私も今年は家族が……なんだかんだでメンドクサイことがいっぱいあるのですが、小説は別……と言ってられるかな。書けたらいいのですが。
美月さんも小説のほうもがんばって下さいね。
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